なぜこのコースは「プロでも泣く」と言われるのか?
オクラホマ州タルサにあるサザン・ヒルズ・カントリークラブ。ここは単なる名門コースではありません。全米オープン、全米プロゴルフ選手権を何度も開催し、世界のトッププロたちが「最も手強い相手」と口を揃えるモンスターコースなのです。
私が初めてここでプレーした時、地元のメンバーから言われた言葉が忘れられません。「君がどれだけ上手くても、このコースは必ず謙虚にさせてくれる」。その意味を、18ホール回った後に身をもって理解することになりました。
設計者のペリー・マクスウェルが1936年に完成させたこのコース、実は当初から「プロトーナメント開催を前提とした設計」という極めて珍しいコンセプトで作られています。
「見た目は美しいのに、なぜこんなに難しい?」の答え
サザン・ヒルズの恐ろしさは、一見すると「普通に見える」ことです。派手な池やトリッキーなレイアウトはありません。しかし、その罠は想像以上に巧妙でした。
最大の特徴は極小グリーンと絶妙なバンカー配置です。平均的なゴルフ場のグリーンが約600平方メートルなのに対し、ここは約400平方メートル。さらに、グリーン周りの傾斜が絶妙で、少しでもピンを外すとボールが転がり落ちてしまいます。
私が体験したのは18番ホール。残り150ヤード、ピンまで直線距離で狙えそうに見えました。しかし、グリーン手前のバンカーに入り、そこから脱出したボールはグリーンを越えて奥のラフへ。結果、ダブルボギー。後で聞くと、このホールでプロでも平均4.2打を要するのだとか。
メンバーだけが知る「裏攻略法」を教えてもらった
ラウンド後、クラブハウスで地元メンバーの方と話していて、驚くべき事実を知りました。「サザン・ヒルズで良いスコアを出すコツは、グリーンを狙わないこと」。
これは逆説的ですが、実は理にかなっています。極小グリーンを直接狙うより、グリーン周り30ヤード以内からのアプローチとパッティングに全神経を集中する戦略が有効なのです。
例えば、par4の12番ホール。セカンドショットでピンを狙うのではなく、意図的にグリーン手前20ヤードの平坦な場所を狙います。そこから確実にグリーンオンさせ、2パットでパー。これが「サザン・ヒルズ流」の攻略法だと教わりました。
プレー料金は平日で約300ドル、土日祝日で約400ドル(メンバー同伴が必要)。決して安くはありませんが、この戦略を知ってからのラウンドは別世界でした。
クラブハウスで聞いた「タイガー・ウッズ秘話」
サザン・ヒルズのクラブハウスは、それ自体が生きた博物館です。1958年の全米オープンでベン・ホーガンが記録した写真、2007年全米プロでタイガー・ウッズが優勝した時のクラブなど、ゴルフ史の宝物が展示されています。
ここで聞いた興味深い話があります。2007年の全米プロ選手権で優勝したタイガー・ウッズ、実は練習ラウンド中に18ホール中15ホールでグリーンを外していたそうです。しかし、本番では見事に優勝。秘密は徹底的なグリーン周りの練習にあったと、当時のキャディマスターが教えてくれました。
クラブハウス内のダイニングルームでは、オクラホマ名物のBBQビーフが味わえます(約25ドル)。窓から見えるコースを眺めながらの食事は、ラウンドの余韻に浸る最高の時間でした。
アクセスと予約、そして「次回への宿題」
タルサ国際空港から車で約20分という好立地。ただし、プライベートクラブのためメンバー同伴またはホテルのゴルフパッケージ利用が必須です。私はタルサ市内のホテル「ザ・メイヨー・ホテル」のゴルフパッケージ(1泊2プレー約800ドル)を利用しました。
営業時間は日の出から日没まで。予約は最低でも2週間前、トーナメント開催月(通常5月と8月)は1ヶ月前の予約が必要です。帰り際、プロショップで興味深いものを発見しました。「サザン・ヒルズ攻略マップ」という非売品の資料です。これは過去のトーナメントで使用された詳細なピン位置とグリーンの傾斜を記録したもの。スタッフの方が「次回来る時のために」とコピーをくれました。
この資料を見ると、なぜプロたちがあれほど苦戦するのかが一目瞭然。例えば、8番ホールのグリーンには「デッドゾーン」と呼ばれる場所があり、そこにボールが止まると3パット確実という恐ろしいエリアが存在するのです。
意外すぎる「冬季限定プレー」の魅力
多くの人が知らない事実ですが、サザン・ヒルズは12月から2月の冬季でもプレー可能です。オクラホマの冬は思ったほど厳しくなく、平均気温5-10度程度。雪が降ることは稀で、むしろこの時期のプレーには隠れたメリットがあります。
まず、プレー料金が約30%安くなります(平日約200ドル)。そして何より、グリーンのスピードが夏場よりも遅くなるため、初心者にとっては格段にプレーしやすくなるのです。地元メンバーは「冬のサザン・ヒルズで腕を磨いて、春に真の実力を試す」という人が多いそうです。
最後に分かった「このコースの本当の教え」
18ホールを終えて駐車場に向かう途中、設計者ペリー・マクスウェルの言葉が刻まれた石碑を見つけました。「Great golf is not about conquering the course, but about conquering yourself(偉大なゴルフとは、コースに勝つことではなく、自分自身に勝つことである)」。
サザン・ヒルズは確かに難しいコースです。しかし、その難しさは理不尽な罠ではなく、ゴルファーの技術と精神力を総合的に試す「究極の試験場」なのだと実感しました。スコアメイクに必死になるのではなく、一打一打に集中し、自分の限界に挑戦する。それこそが、このコースが与えてくれる最高の体験なのです。
タルサを離れる飛行機の中で、既に「次回のリベンジ」を計画している自分がいました。サザン・ヒルズは、一度プレーしただけでは到底理解できない奥深さを持つ、真のチャンピオンシップコースだったのです。