北海道の海辺に突如現れたスコットランド
北海道苫小牧市の太平洋岸に佇むプレイリー・デューンズ ゴルフクラブ。ここは単なるゴルフコースではありません。本格的なリンクススタイルを日本で体験できる、極めて稀有な存在です。
新千歳空港から車でわずか30分という立地でありながら、クラブハウスを出た瞬間に感じるのは、まるでスコットランドの海辺に降り立ったような錯覚。設計者のマイケル・ヒューズが描いたのは、人工的な美しさではなく、自然の荒々しさをそのまま活かしたコースでした。
料金は平日で15,000円前後、土日祝日で20,000円前後と決して安くはありませんが、この体験の価値を考えれば納得の設定です。
「風が読めない」これがリンクスの洗礼?
プレイリー・デューンズの最大の特徴は、なんといっても太平洋からの風です。しかしこの風、一筋縄ではいきません。海からの風だからといって一定方向から吹くわけではなく、コース内の地形や植生によって複雑に変化するのです。
特に印象的だったのが7番ホール。ティーグラウンドでは追い風を感じていたのに、ボールが頂点に達する頃には横風に変わり、グリーン周りでは向かい風になっているという、まさに「風の迷宮」状態でした。
キャディさんに聞いたところ、「朝と午後でも風向きが変わるし、同じホールでも日によって全く違う顔を見せる」とのこと。これこそがリンクスゴルフの醍醐味なのだと、身をもって理解しました。
フェアウェイバンカーが語る設計思想の深さ
プレイリー・デューンズで最も感動したのは、フェアウェイバンカーの配置でした。一見ランダムに見える砂地は、実は綿密に計算された戦略的要素だったのです。
例えば12番ホール。ドライバーでフルスイングすると必ず右サイドのバンカーにつかまる設計になっています。しかし風向きを読んで左サイドを狙うと、今度は次のショットでピンを狙いにくいライが待っている。「飛ばせばいい」という現代ゴルフの常識を見事に覆されました。
面白いのは、これらのバンカーが天然の砂丘を活用していること。人工的に作られた美しいバンカーではなく、この土地が持っていた自然の起伏をそのまま利用しているため、入ってみると毎回違う状況に遭遇します。
グリーンの「読み」で痛感した技術不足
プレイリー・デューンズのグリーンは、正直に言って非常に難易度が高いです。しかしその難しさは、単なる傾斜の急さではありません。
最も印象に残ったのは15番ホールのグリーン。一見平らに見えるのに、パットを打つと予想外の方向に転がっていく。後でキャディさんに教えてもらったのですが、このグリーンは微妙な「皿状」の形状になっており、ボールが必ず中央に向かって転がるよう設計されているのだとか。
「見た目と実際の転がりが違う」これがリンクスグリーンの特徴で、芝目や風の影響も相まって、まさに「読み」の技術が試される仕上がりになっています。3パット、4パットは当たり前という覚悟で挑むことをお勧めします。
クラブハウスで聞いた「コース管理」の秘密
ラウンド後のクラブハウスで、偶然にもコース管理責任者の方とお話しする機会がありました。そこで聞いた話が実に興味深かったのです。
プレイリー・デューンズでは、意図的に芝を「痛めつけている」というのです。通常のゴルフコースでは芝生を青々と育てることが良しとされますが、ここでは本場のリンクスコースを再現するため、芝を短く刈り込み、時には枯れかけた状態も演出するのだとか。
特に冬期間(12月〜3月)はクローズになりますが、これも芝生の休息期間として重要な意味があります。営業は4月〜11月の8ヶ月間で、営業時間は日の出から日没まで。北海道という立地を最大限活かした運営方針です。
プレイリー・デューンズでのラウンドは、単なるゴルフではありません。自然との対話であり、ゴルフというスポーツの原点に立ち返る体験でした。技術的な上達よりも大切ですが、風を読み、地形を理解し、自然の力に謙虚になることの重要さを学んだ一日でした。
アクセスと予約のコツ
札幌市内からは高速道路を使って約1時間30分、苫小牧市街地からは20分程度の立地です。公共交通機関でのアクセスは困難なため、レンタカーでの来場が現実的でしょう。
予約は特に夏場(7月〜9月)が混雑するため、2週間前には予約を入れることをお勧めします。また、風の強い日は初心者には特に厳しいコンディションになるため、天気予報をしっかりチェックしてから出発することが大切です。
持参すべき装備とウェア選び
プレイリー・デューンズでは、通常のゴルフ場とは異なる準備が必要です。まず防風ジャケットは必須。夏場でも海からの風で体感温度が下がることがあります。
また、砂地が多いため、クラブの手入れ用品も持参した方が良いでしょう。特にウェッジは砂で傷つきやすく、ラウンド中の清拭が重要になります。
靴についても、スパイクレスよりもソフトスパイクの方が砂地でのグリップ力が高く、安定したスイングができます。
コース攻略の心得
プレイリー・デューンズで学んだ最も重要なことは、「我慢するゴルフ」の大切さでした。風が強い日は飛距離を求めず、低い球でコントロール重視の戦略が有効です。
特にアプローチでは、エアショットよりもランニングショットを多用することで、風の影響を最小限に抑えられます。グリーン周りの花道を上手く使う技術も、このコースでは非常に重要になってきます。
何より大切なのは、スコアよりも「体験」を重視すること。日本にいながら本格的なリンクスゴルフを楽しめる貴重な機会として、風との戦いを楽しんでください。
プレイリー・デューンズは、ゴルフに対する価値観を変えてくれるコースです。技術の向上だけでなく、自然との調和を学べる特別な場所として、多くのゴルファーに体験していただきたいと心から思います。