「やっぱり初心者向けでしょ?」という甘い考えが砕け散った初日
オーストラリア・ニューサウスウェールズ州にあるヤーマンズ・ホール ゴルフクラブ。シドニーから車で約2時間の場所にあるこのコースを「初心者向けの練習場」程度に考えていた私は、まさに痛い目を見ることになりました。
友人から「景色がきれいで、そんなに難しくないよ」と聞いていたんです。確かにコース料金も平日なら80オーストラリアドル(約7,200円)とリーズナブル。営業時間も朝6時から夕方6時まで長く、アクセスもパシフィック・ハイウェイからそれほど遠くない。完璧な条件だと思っていました。
ところが、実際にプレーしてみると…。この「優しそう」なコースには、初心者を容赦なく打ちのめす仕掛けが巧妙に隠されていたのです。
罠その1「見た目以上に複雑な地形変化」に翻弄される
最初のホールから、いきなり洗礼を受けました。ティーグラウンドから見ると比較的フラットに見えるフェアウェイ。ところが実際に歩いてみると、微妙なアンジュレーション(起伏)が至る所にあるんです。
特に驚いたのが7番ホール。一見すると真っ直ぐなパー4に見えるのですが、セカンドショット地点から急激に左に傾斜しているんです。知らずにいつものように打つと、ボールは坂を転がってラフの奥深くへ。これを地元のキャディさんは「ヤーマンズ・トラップ」と呼んでいるそうです。
しかも、この地形変化は航空写真や一般的なコース案内では分からない絶妙なもの。現地でプレーして初めて気づく、まさに「隠れた難しさ」でした。グリーン周りも同様で、見た目よりもずっと複雑な傾斜があり、パッティングで何度も悔しい思いをしました。
罠その2「風の読みが全く通用しない」マイクロクライメート現象
ヤーマンズ・ホールの立地は、太平洋からの海風と内陸からの風がぶつかる独特な場所にあります。これが「マイクロクライメート(局地気候)」という現象を生み出し、ホールごとに全く異なる風向きになるんです。
例えば、1番ホールでは追い風だったのに、すぐ隣の2番ホールでは強烈な向かい風。しかも、この風は一日中コロコロと変わります。朝のラウンド時と午後では、まるで別のコースをプレーしているような感覚になりました。
地元のプレーヤーに聞いた話では、「風を読むのではなく、風に合わせてプレーする」のがヤーマンズ・ホール攻略のコツだそうです。つまり、毎ショットごとに風向きを確認し、クラブ選択を柔軟に変える必要があるということ。初心者の私には、これが一番の難題でした。
罠その3「メンテナンスの良さが逆に困る」グリーンの速さ
ヤーマンズ・ホールのグリーンメンテナンスは、正直なところ素晴らしすぎました。スティンプメーター(グリーンの速さを測る道具)で11フィート以上という、プロ仕様の高速グリーン。芝の密度も完璧で、ボールの転がりに一切の妥協がありません。
しかし、これが初心者には大きな壁となります。普段慣れ親しんだパブリックコースのグリーンとは全く別物。少しでも強く打てば、ボールはカップを素通りしてグリーンエッジまで転がっていきます。逆に弱すぎると、微妙な傾斜でボールが止まってしまう。
特に印象的だったのが15番ホールのグリーン。直径約30メートルの大きなグリーンですが、中央に微妙な尾根があり、ボールが左右どちらかに分かれてしまう構造。しかも高速グリーンなので、一度傾斜に乗ると止まりません。3パットどころか、4パットも珍しくない難易度でした。
それでも魅力的な「隠れた名コース」の真価とは?
散々苦労したヤーマンズ・ホールですが、実はこれらの「罠」こそが、このコースの真の魅力だったのかもしれません。単なる初心者向けコースではなく、戦略性と技術向上を両立できる貴重なコースだったのです。
コースレイアウトを手がけたのは、オーストラリアの名設計家ロス・ワトソン。彼の設計哲学である「自然地形を活かしつつ、プレーヤーの判断力を試す」というコンセプトが、随所に表れています。特に13番ホールは、彼の代表作の一つとして地元ゴルフ誌でも度々紹介される名ホール。左ドッグレッグの先に待つ池越えのアプローチは、まさに芸術的な美しさと戦略性を兼ね備えています。
クラブハウスのスタッフに聞いた興味深い話があります。実はこのコース、オーストラリア・プロゴルフ協会の強化指定コースの一つで、若手プロが腕を磨く練習ラウンドにも使われているそうです。つまり、私たちアマチュアが苦戦するのも当然。プロでさえ真剣に取り組むコースだったというわけです。
地元民だけが知る「ヤーマンズ攻略法」を教えてもらった
ラウンド後、プロショップで偶然出会った地元のシニアゴルファー、ビルさん(78歳)から貴重なアドバイスをいただきました。彼はこのコースで40年以上プレーしているという生き字引的存在。
「ヤーマンズは午前中のラウンドが鉄則」だそうです。理由は風の安定度。午後になると海風と陸風の切り替わり時間帯に入り、風向きが読めなくなるから。また、「グリーンは必ずカップより下から攻める」というのも、地元プレーヤーの共通認識だとか。
さらに驚いたのが、コース内にある野生のカンガルーの存在。早朝や夕方のラウンドでは、フェアウェイ脇でのんびり草を食べている光景に出会えるそうです。ただし、彼らには絶対に近づいてはいけません。オーストラリアの野生動物保護法により、妨害行為は重い罰金対象になります。
「また挑戦したい」と思わせる不思議な魔力
正直に言うと、スコアは散々でした。普段より20打以上悪いスコア。それでも、なぜか「もう一度プレーしたい」という気持ちが強く残っています。
これがヤーマンズ・ホールの不思議な魅力かもしれません。単純に「易しい」「難しい」で片付けられない、複雑で奥深いゴルフ体験。失敗から学ぶことの多さ、そして次回はきっとうまくできるはずという期待感。
帰り道、シドニーへ向かう車の中で振り返ってみると、この一日で学んだゴルフの奥深さは計り知れませんでした。技術的な面はもちろん、自然との対話、戦略的思考、そして何より「完璧でなくても楽しめる」ゴルフの本質を教えてくれたコースでした。
次回オーストラリアを訪れる際は、必ずリベンジラウンドを予約するつもりです。今度は午前中スタート、そしてビルさんから教わった攻略法を実践して。きっと今回とは全く違う、素晴らしいゴルフ体験になることでしょう。