バチカン美術館で迷子になった私が発見した、世界最小国家の隠された真実

世界最小の国って、本当に観光できるの?

バチカン市国の全景

面積わずか0.44平方キロメートル、人口約800人。東京ドーム1個分にも満たないバチカン市国を初めて訪れた時、正直「こんな小さな場所で何を見るんだろう」と思っていました。ところが実際に足を踏み入れてみると、その密度の濃さに圧倒されてしまったのです。

バチカン市国はローマの中心部に位置し、コロッセオから地下鉄で約15分、徒歩でも30分ほどの距離にあります。入場料はバチカン美術館が大人17ユーロ(オンライン予約時)で、システィーナ礼拝堂への入場も含まれています。営業時間は月曜から土曜の8時から18時まで(最終入場16時)ですが、日曜日は基本的に休館なので要注意です。

予約なしで行くと、地獄を見る?

バチカン美術館の長い行列

バチカン観光で最も重要なのは事前予約です。私が初めて訪れた時、予約の重要性を軽く見ていました。朝9時に到着したにも関わらず、入場まで3時間待ちという衝撃の現実が待っていたのです。

オンライン事前予約は絶対必須と言えるでしょう。特に4月から10月の観光シーズンでは、当日券での入場はほぼ不可能と考えてください。予約手数料4ユーロを支払っても、時間を買うと思えば安いものです。また、早朝8時の開館直後か、15時以降の入場がおすすめ。団体ツアーが少ない時間帯で、比較的ゆっくり見学できます。

意外と知られていないのが、毎月最後の日曜日の無料開放日です。ただし、この日は地元ローマ市民も大勢訪れるため、むしろ混雑は激化します。無料につられて行くと、人の海に呑まれて何も見えないという悲劇が待っています。

システィーナ礼拝堂で、写真を撮ろうとすると?

システィーナ礼拝堂内部

システィーナ礼拝堂は、ミケランジェロの傑作「天地創造」と「最後の審判」で世界的に有名ですが、ここでは撮影が完全に禁止されています。警備員が「シレンツィオ(静粛に)」「ノー・フォト」と繰り返し注意しているにも関わらず、隠し撮りしようとする観光客の多いこと。

実は、この撮影禁止には深い理由があります。礼拝堂の修復作業は日本のテレビ局NHKが技術協力し、その代償として撮影権を得ているのです。つまり、私たちが美しい映像で見ることができるミケランジェロの天井画は、日本の技術によって守られているという誇らしい事実があります。

礼拝堂内では立ち止まることも禁止されており、常に人が流れているような状態です。首が痛くなるほど天井を見上げながら、ゆっくりと歩を進める体験は、まさに芸術の中を歩いているような不思議な感覚でした。

法王に会えるチャンスって、実際にあるの?

サンピエトロ広場での一般謁見

バチカン観光のハイライトは、なんといっても法王との謁見の可能性です。毎週水曜日の午前10時30分から、サンピエトロ広場で一般謁見が行われます(法王の都合により中止の場合もあり)。入場は無料ですが、良い席で見たい場合は有料の指定席券(15-25ユーロ)を購入する必要があります。

私が参加した時は、法王フランシスコが群衆の中を車で巡回し、手を振ってくださいました。カトリック信者でなくても、その瞬間の厳かな雰囲気と感動は言葉では表現できません。また、日曜日の正午にはアンジェラスの祈りがあり、法王がアポストリコ宮殿の窓から姿を現します。

意外な事実として、バチカンには独自の郵便局があり、ここから送られる郵便物は世界中のコレクターに人気です。バチカン郵便局の消印が押されたハガキは、記念品として最高のお土産になります。郵便料金は少し高めですが、世界最小国家からの郵便という特別感は格別です。

バチカンで食事をするって、可能なの?

バチカン美術館内のカフェテリア

バチカン市国内には一般観光客が利用できるレストランはありませんが、バチカン美術館内にはカフェテリアがあります。コーヒー1杯3ユーロ、サンドイッチ8-12ユーロと、観光地価格ではありますが、美術館見学の合間の休憩には重宝します。

特におすすめなのが、美術館のテラスから眺めるサンピエトロ大聖堂のドームです。カフェで休憩しながら、この絶景を独占できる贅沢な時間は、入場料を払った人だけの特権といえるでしょう。

より本格的な食事を楽しみたいなら、バチカンの城壁を出てすぐの場所にあるボルゴ地区がおすすめです。観光客向けのレストランが多い中、地元ローマ人も通う「Da Enzo al 29」では、本格的なローマ料理を味わえます。カルボナーラ12ユーロ、アマトリチャーナ11ユーロと、バチカン周辺としては良心的な価格設定です。

知られざるバチカンの地下世界

バチカンには一般公開されていない秘密の地下遺跡が存在します。サンピエトロ大聖堂の真下には、使徒ペテロの墓があるとされる古代ローマ時代のネクロポリス(墓地遺跡)が眠っています。この「スカヴィ」と呼ばれる遺跡見学は、事前申請が必要で年間わずか250人しか入場できません。

申請はバチカン公式サイトから行いますが、返事が来るまで数ヶ月かかることもあります。私は3回申請してようやく許可が下り、ガイド付きで90分間の特別ツアーに参加できました。入場料は13ユーロと安価ですが、この希少価値は計り知れません。

スイス衛兵の意外な真実

バチカンの警備を担うスイス衛兵の鮮やかな制服は、実はミケランジェロがデザインしたという説がありますが、これは俗説です。実際の制服は20世紀初頭にデザインされたもので、彼らの任期は最低2年間。スイス国籍を持つカトリック信者の独身男性のみが応募できるという厳格な条件があります。

衛兵との記念撮影は可能ですが、彼らが持つ槍に触れることは厳禁です。観光客が知らずに槍に手を伸ばし、厳しく注意される場面を何度も目撃しました。彼らは観光の見世物ではなく、真剣に法王の警護を行っているプロフェッショナルなのです。

バチカンから持ち帰れる特別なお土産

バチカンでしか手に入らない特別なお土産として、法王が祝福したロザリオがあります。毎週水曜日の一般謁見で、法王が群衆に向かって祝福を行う際、手に持ったロザリオや宗教的なアイテムも一緒に祝福されるとされています。

また、バチカン内の書店では法王の署名入り回勅(教皇教書)や、バチカン限定の書籍を購入できます。日本語版は少ないものの、イタリア語や英語版なら豊富な選択肢があります。価格は15-50ユーロと幅広く、カトリック信者でなくても歴史的価値のあるコレクションとして人気です。

バチカン市国は、面積こそ小さいものの、その文化的・宗教的密度は世界随一です。事前の準備を怠らず、時間に余裕を持って訪れれば、きっと一生忘れられない体験となるでしょう。ローマ滞在中の1日を、この特別な国家での冒険に捧げてみてはいかがでしょうか。