ベトナム北部の宝石と呼ばれるハロン湾。しかし、年間500万人が訪れる人気観光地だからこそ、知らないと後悔する落とし穴があります。私が現地で体験した失敗談と、地元ガイドから教わった本当の楽しみ方をお伝えします。
安いツアーに飛びつくと痛い目に遭う?
ハノイの旧市街を歩いていると、至る所で「ハロン湾日帰り30ドル!」という看板を見かけます。しかし、これが最初の大きな罠です。
私が初回の訪問で選んだ格安ツアーは、朝5時にハノイ出発、片道3時間半のバス移動で既にぐったり。船に乗り込むと、なんと150人乗りの巨大クルーズ船で、デッキは人だらけ。写真を撮ろうにも、常に他の観光客が映り込んでしまいます。
昼食は冷めた揚げ春巻きとパサパサのご飯。鍾乳洞見学は1箇所のみで滞在時間わずか30分。夕方6時にはハノイに戻るという慌ただしいスケジュールでした。
地元ガイドのミンさんに後日聞いた話では、質の高いハロン湾ツアーは最低でも80ドル以上。1泊2日の船上泊ツアーが断然おすすめで、料金は150ドル前後が相場だそうです。船上で迎える朝日は格別で、静寂に包まれた湾内で聞こえるのは波の音だけ。これぞハロン湾本来の魅力です。
意外と知らない?ベストシーズンの落とし穴
多くのガイドブックでは「10月から4月が乾季でベストシーズン」と書かれていますが、実際はそう単純ではありません。
12月から2月の冬場は確かに雨は少ないものの、気温が15度前後まで下がり、霧が発生しやすい時期でもあります。私が1月に訪れた時は、3日間のうち2日間が濃霧で、あの有名な奇岩群がほとんど見えませんでした。
地元の船頭ドゥックさんによると、「観光には4月から6月、そして9月から10月がベスト。特に5月は雨も少なく、気温も25度前後で過ごしやすい」とのこと。ただし、この時期は欧米からの観光客が多く、船の予約は2週間前には済ませておく必要があります。
意外な穴場は7月から8月の雨季。確かに雨は多いですが、スコール性なので1日中降り続くことは稀。雨上がりの空気が澄んだハロン湾は、乾季とは全く違う幻想的な美しさを見せてくれます。何より観光客が少なく、船上でのんびり過ごせるのが魅力です。
地元漁師が教える隠れスポットって?
一般的な観光ツアーでは、ティエンクン洞窟(天宮洞)やダウゴー洞窟を巡るのが定番コース。しかし、本当に美しいのは観光地化されていない小さな洞窟や入り江なのです。
漁師歴40年のタンおじいさんが案内してくれたバイトゥロン湾の奥にある名もない洞窟は圧巻でした。観光客は私たちだけ。洞窟内に小さな湖があり、そこに差し込む光がまるで天からの恵みのよう。「この洞窟には名前がない。だからこそ美しいんだ」とタンさん。
こうした隠れスポットに行くには、プライベートツアーを利用するか、現地の漁師と直接交渉する必要があります。ハロン湾の港で夕方になると、翌日のプライベート船を探している個人旅行者によく出会います。2〜4人でシェアすれば、1人50ドル程度で贅沢な体験ができます。
ただし、個人手配の場合はライフジャケットの確認と天気予報のチェックを忘れずに。2019年に小型船の事故があったため、安全管理がしっかりしている船を選ぶことが大切です。
船上グルメの真実と注意すべきポイント
ハロン湾観光の楽しみの一つが新鮮なシーフード。しかし、ここにも知っておくべきポイントがあります。
大型ツアー船の食事は、どうしても大量調理になるため味は期待できません。一方、小型船やプライベートツアーでは、その場で漁師から直接買い付けた魚介を調理してくれることも。特にハロン湾名物の「チャーカー」(白身魚の揚げ物)は絶品です。
注意したいのは生ガキ。現地の人は平気で食べていますが、日本人の胃腸には少し刺激が強い場合があります。私も調子に乗って5個も食べたところ、翌日お腹を壊してしまいました。生ものは1〜2個程度に留めておくのが無難です。
船上での飲み物は割高になることが多いため、ハノイで水やソフトドリンクを買い込んでおくのがおすすめ。ただし、アルコールは持ち込み禁止の船もあるので事前確認が必要です。
漁師メシの衝撃体験
忘れられないのは、地元漁師ファムさんの船で食べた「本物の漁師メシ」。観光客向けではない、彼らが普段食べている素朴な料理でした。採れたてのイカを船上で干物にして、炭火で軽く炙っただけの一品が、今まで食べたどんな高級料理よりも美味しく感じられました。
「観光客は豪華な料理を求めるが、海の本当の味はシンプルな調理法でこそ分かる」とファムさん。こうした体験ができるのも、個人手配ならではの醍醐味です。
トラブル回避のための実践的アドバイス
ハロン湾観光で最も多いトラブルが天候による欠航です。特に11月から1月にかけては霧や強風により、予定が大幅に変更されることがあります。
私の友人は2日間のクルーズツアーを予約していたものの、1日目の夕方から霧が濃くなり、2日目は港から出航すらできませんでした。この時期に訪れる場合は、スケジュールに1日程度の余裕を持たせておくことが重要です。
また、船酔いしやすい方は必ず酔い止め薬を持参してください。ハロン湾は比較的波が穏やかですが、外海に近づくと結構揺れます。現地でも薬は購入できますが、ベトナム語表記のため成分が分からず不安になることも。
詐欺まがいの土産物売りに要注意
船上で「地元の真珠です」と言って高額な装飾品を売りつける業者がいますが、99%が偽物です。本物のハロン湾真珠は非常に高価で、船上で気軽に売られるものではありません。土産物は港の正規店で購入するのが安全です。
意外に知られていないのが、ハロン湾周辺で採れる「龍井茶」。中国の龍井茶とは別物で、独特の甘みがあります。港近くの茶店で1袋20万ドン(約1,200円)程度で購入でき、日本では手に入らない貴重なお土産になります。
心に残る最後の1日の過ごし方
多くの観光客はハロン湾観光後、そのままハノイに戻ってしまいますが、実はハロン市内にも魅力的なスポットがあります。
クアンニン博物館では、ハロン湾の地質学的成り立ちや、この地域で発見された古代人の化石などが展示されています。入場料はわずか2万ドン(約120円)。ハロン湾の奇岩群が4億年前の石灰岩でできていることを知ると、クルーズ中に見た景色がより一層神秘的に感じられます。
夕方には港の魚市場を散策するのもおすすめ。漁師たちが一日の漁を終えて戻ってくる時間帯で、活気に満ちています。ここでバインミー・カー(魚のバインミー)を食べるのが地元流。観光地のレストランでは味わえない、本当のベトナムの味です。
最後に、ハロン湾を訪れた多くの人が「もう一度来たい」と言います。それは単に美しい景色を見たからではなく、悠久の時を刻んできた大自然の前で、自分の小ささと同時に、この瞬間の貴重さを実感するからなのかもしれません。
罠を避けて、本当のハロン湾の魅力に出会う旅。きっとあなたにとっても忘れられない体験になるはずです。