アッシジ大聖堂で知らずに犯した「撮影禁止エリア侵入」の大失敗から学んだ、聖フランチェスコの真の魅力

なぜ私はアッシジ大聖堂で警備員に止められたのか?

アッシジ大聖堂の外観

イタリア中部の丘陵地帯に佇むアッシジ。ここで私は生涯忘れられない失敗を犯しました。サン・フランチェスコ聖堂(バシリカ・ディ・サン・フランチェスコ)の下聖堂で、うっかりフラッシュ撮影をしてしまったのです。

ローマから電車で約2時間、ペルージャ経由でアッシジ駅に到着。そこからバスで約15分かけて旧市街へ向かいます。石畳の道を歩きながら見えてくる大聖堂の威容に、思わず心が躍りました。入場料は無料ですが、オーディオガイドは5ユーロ。開館時間は8時30分から18時(冬季は17時45分まで)と、比較的長時間開放されています。

しかし、ここで大きな落とし穴が待っていたのです。

上聖堂と下聖堂、どちらから回るべき?

大聖堂内部のフレスコ画

多くの観光客は明るい上聖堂から見学を始めますが、私は逆のルートを選びました。この選択が、後の失敗につながったのです。

下聖堂は1228年に完成した古い部分で、聖フランチェスコの墓があります。薄暗い石造りの空間に、チマブーエやシモーネ・マルティーニの貴重なフレスコ画が描かれています。特に「聖フランチェスコの生涯」を描いた連作は、13世紀の芸術として極めて価値が高いもの。

一方、上聖堂は1253年に完成したゴシック様式の傑作です。ジョットが描いた28場面の「聖フランチェスコの生涯」は、ルネサンス絵画の出発点とも言われています。天井の高さは約25メートル、その開放感は圧倒的です。

しかし下聖堂の神秘的な雰囲気に魅了された私は、ついカメラを向けてしまいました。

「禁止エリア」に足を踏み入れた瞬間の恐怖

聖堂内の礼拝スペース

フラッシュが光った瞬間、警備員の鋭い視線が私を捉えました。イタリア語で何かを叫びながら近づいてくる姿に、血の気が引きました。

実は、下聖堂の聖フランチェスコの墓周辺は撮影完全禁止なのです。湿気や光による色彩の劣化を防ぐため、厳格に管理されています。幸い、警備員は英語で「写真を削除するように」と指示しただけで済みましたが、場合によっては退場処分もあり得たそうです。

この経験から学んだのは、事前の情報収集の大切さ。公式サイトでは「下聖堂と聖フランチェスコの墓は撮影禁止、上聖堂はフラッシュなしなら可能」と明記されていたのに、私は見落としていたのです。

特に注意すべきは、クリプタ(地下聖堂)と呼ばれる聖フランチェスコの実際の墓がある場所。1818年に発見されたこの聖なる空間では、写真撮影はもちろん、大きな声での会話も慎むべきです。

ジョットの傑作に隠された「謎の人物」とは?

ジョットの壁画の詳細

失敗から立ち直った私は、改めて上聖堂のジョットの作品群と向き合いました。そこで発見したのが、一般的なガイドブックには載っていない興味深い事実です。

「聖フランチェスコの生涯」第28場面「聖フランチェスコの昇天」をよく見ると、群衆の中に明らかに時代にそぐわない服装の人物が描かれています。美術史家の間では、これがジョット自身の自画像、あるいはパトロンの肖像画ではないかと議論が続いています。

また、第11場面「火の前での証明」では、聖フランチェスコが火の中を歩く奇跡が描かれていますが、よく観察すると炎の描写に当時としては革新的な技法が使われています。ジョットは光と影の表現において、それまでのビザンチン様式から大きく脱却し、現実的な立体感を生み出しました。

これらの発見は、単に美しい宗教画を鑑賞するだけでは得られない深い満足感を与えてくれます。

アッシジでしか味わえない「フランチェスカーナ料理」の魅力

アッシジの街並みと聖堂

大聖堂見学後の楽しみは、なんといっても地元料理です。アッシジには「フランチェスカーナ料理」と呼ばれる独特の食文化があります。

「ポルケッタ・ディ・アッシジ」は、聖フランチェスコが愛したとされる質素な豚の丸焼きです。大聖堂から徒歩5分の「トラットリア・パレッタ」では、伝統的なレシピで調理された本物の味を楽しめます。1人前約15ユーロで、ハーブの香りが口いっぱいに広がります。

もう一つの名物は「トルタ・アル・テスト」という平たいパン。中にはペコリーノチーズや地元産のサラミが挟まれ、聖フランチェスコ会の修道士たちが巡礼者に振る舞っていた料理が原型とされています。大聖堂近くの「アンティカ・オステリア・ピアッツェッタ・デル・エルバ」で味わえます。

意外と知らない「ベストな訪問時期」の真実

多くのガイドブックは「春から秋がベスト」と書いていますが、実際に訪れて分かったのは冬の魅力です。12月から2月にかけてのアッシジは観光客が激減し、大聖堂内でゆっくりとフレスコ画と向き合えます。

特に1月の平日なら、下聖堂でほぼ一人きりになれることも。聖フランチェスコの墓前で静寂に包まれる体験は、夏の喧騒では絶対に味わえません。気温は5度前後まで下がりますが、聖堂内は石造りのため意外に暖かく感じます。

また、10月4日の聖フランチェスコ祭は避けるべき日程です。世界中から巡礼者が押し寄せ、入場まで2時間以上待つこともあります。

失敗から学んだ「完璧な見学プラン」

私の失敗経験を踏まえた理想的な見学順序をお教えします。まず到着したら上聖堂から見学開始。明るい空間でジョットの作品群をじっくり鑑賞し、写真撮影も楽しめます。

次に下聖堂へ移動し、チマブーエの「聖母子像」を拝観。ここで重要なのは、カメラは完全にバッグにしまうこと。私のような失敗を避けるためです。

最後にクリプタ(地下聖堂)で聖フランチェスコの墓参り。階段を下りる際は足音にも注意を払い、敬虔な気持ちで臨みましょう。

所要時間は全体で約2時間。オーディオガイドがあれば、より深い理解が得られます。大聖堂を出た後は、隣接する「聖フランチェスコ修道院」も見学可能(別途5ユーロ)。ここには聖人の遺品や貴重な写本が展示されています。

アッシジ大聖堂は単なる観光地ではなく、800年の祈りが積み重なった聖なる空間です。私の失敗談が、皆さんのより良い旅の参考になれば幸いです。ルールを守りながら、この世界遺産の真の美しさを心に刻んでください。