シンシナティで絶対に見逃してはいけない隠れた名所と、地元民しか知らない裏グルメスポット

なぜシンシナティが「アメリカの隠れた宝石」と呼ばれるのか?

シンシナティの街並みと観光スポット

オハイオ州南西部に位置するシンシナティは、多くの日本人旅行者にとってまだまだ未知の都市です。シカゴやニューヨークの陰に隠れがちですが、実は19世紀にはアメリカ西部への玄関口として「クイーン・シティ」と呼ばれるほど栄えた歴史ある街なんです。私が初めてこの街を訪れたとき、その美しい建築群と独特の文化に完全に心を奪われました。

シンシナティの魅力は、ヨーロッパ風の美しい建築アメリカ中西部の温かい人情が見事に融合している点にあります。オハイオ川沿いに発展したこの街は、南北戦争時代には地下鉄道(奴隷解放の秘密ルート)の重要拠点でもありました。現在でも人口約30万人の適度な規模で、観光客にとって非常に回りやすい街です。

ドイツ移民が作り上げた独特の街並み

19世紀中頃、大量のドイツ系移民がこの街に定住し、現在でもその影響が色濃く残っています。特にオーバー・ザ・ライン地区は、アメリカ最大級のドイツ系建築群が保存されており、まるでヨーロッパの古い街を歩いているような錯覚に陥ります。この地区の名前は、文字通り「ライン川を越えて」という意味で、ドイツからの移民たちの郷愁が込められているんです。

まず押さえておきたい定番スポットは?

シンシナティ観光の起点となるのは、間違いなくファウンテン・スクエアです。1871年に完成したタイラー・デイヴィッドソン噴水を中心とした広場で、街の心臓部といえる場所。ここから徒歩圏内に主要な観光スポットが集中しています。

噴水の周りには常に地元の人々が集まり、特に夏場は様々なイベントが開催されます。私が訪れた7月には、毎週金曜日の夜にライブ音楽が演奏され、地元の人々が踊りながら夜を楽しんでいました。観光客も気軽に参加できる雰囲気で、アメリカ中西部の人々の温かさを肌で感じることができます。

フィンドレー・マーケットで朝食を楽しもう

フィンドレー・マーケットは1852年から続く歴史ある公設市場で、土曜日の朝8時から午後4時まで最も賑わいます。ここでぜひ試してほしいのがゲッタ(Goetta)という地元グルメ。豚肉とオートミールを混ぜて作るドイツ系の伝統料理で、シンシナティ以外ではほとんど見かけない珍しい食べ物です。

地元のおばあちゃんが作るゲッタは1枚3ドル程度で、外はカリッと中はしっとりとした独特の食感が病みつきになります。マーケット内のエコーズ・オブ・エリン(Echo’s of Erin)というスタンドのものが特に評判です。

地下鉄道の歴史を辿る感動体験

シンシナティの隠れた魅力の一つが、地下鉄道(Underground Railroad)の歴史遺産です。これは実際の地下鉄ではなく、19世紀に奴隷制度から逃れる黒人奴隷を北部やカナダに送り届けた秘密のネットワークのこと。オハイオ川の対岸がケンタッキー州(当時の奴隷州)だったシンシナティは、自由への最初の停留所として重要な役割を果たしました。

ナショナル・アンダーグラウンド・レイルロード・フリーダム・センター(入場料15ドル、月曜定休)では、この歴史を詳しく学ぶことができます。館内の展示は非常によく作り込まれており、当時の逃亡奴隷の心境を追体験できる仕掛けが満載。特に地下室を模した展示室では、実際に隠れ家で過ごした人々の恐怖と希望を肌で感じることができます。

ハリエット・ビーチャー・ストウの足跡

あまり知られていませんが、『アンクル・トムの小屋』の著者ハリエット・ビーチャー・ストウは、シンシナティで18年間を過ごし、この作品の着想を得ました。彼女の父親が運営していたレーン神学校(現在のレーン・セミナリー)は現在も見学可能で、彼女が実際に住んでいた家も保存されています。

シンシナティ名物チリを巡る冒険

シンシナティを語る上で絶対に外せないのがシンシナティ・チリです。普通のチリとは全く違う、この街独特のB級グルメ。ギリシャ系移民が考案したこの料理は、シナモンやチョコレート、さらにはクローブなどのスパイスが効いた独特の味わいが特徴です。

スカイライン・チリ(Skyline Chili)ゴールド・スター・チリ(Gold Star Chili)という二大チェーンが熾烈な競争を繰り広げており、地元の人々はどちらが美味しいかで真剣に議論します。私のおすすめは断然スカイライン・チリ。特に「5ウェイ」(スパゲッティの上にチリ、チーズ、玉ねぎ、豆を順番に重ねたもの)を注文すれば、シンシナティの真髄を味わえます。1人前8ドル程度で、ボリューム満点です。

地元の人に聞くと、初めて食べる観光客の9割は最初「変な味」と感じるそうですが、2回目には必ずハマるという不思議な魅力があります。実際、私も最初は戸惑いましたが、今では恋しくてたまらない味になりました。

隠れた名店「キャンプ・ワシントン・チリ」の魔法

チェーン店以外で絶対に訪れてほしいのがキャンプ・ワシントン・チリ。1940年創業の老舗で、ジェームズ・ビアード財団からアメリカ・クラシック賞を受賞した名店です。ここのチリは他店よりもスパイスが効いており、地元のタクシー運転手や工事作業員が常連として通っています。

営業時間は月曜から土曜の午前10時30分から午後9時45分まで(日曜定休)。小さな店内は常に満席で、カウンター席に座ると隣の常連客との会話も楽しめます。

音楽の街としての隠れた一面

シンシナティは実はアメリカ音楽史において重要な地位を占めています。シンシナティ交響楽団はアメリカで5番目に古いオーケストラで、美しいミュージック・ホール(1878年建築)で定期的にコンサートを開催しています。

このホールの音響は世界屈指と言われ、チケットは25ドルから購入可能。建物自体もネオゴシック様式の傑作で、コンサートに興味がなくても建築鑑賞だけで十分価値があります。毎週木曜日の午前11時から無料のガイドツアーも実施されています。

キング・レコードの伝説

音楽マニアなら必ず知っておきたいのが、シンシナティにあったキング・レコードの存在。1943年から1971年まで存在したこのレーベルは、ジェームス・ブラウンやリトル・ウィリー・ジョンなど、R&Bやファンクの巨匠たちを世に送り出しました。

現在その跡地には記念プレートが設置されており、音楽ファンの聖地となっています。場所は少し分かりにくいですが、イートン・アヴェニュー1540番地付近で、地元のレコード店「スピンメア・レコーズ」で詳しい情報を教えてもらえます。

知る人ぞ知る絶景スポット

観光ガイドブックにはほとんど載っていませんが、デヴォー・パークからの夕暮れの眺めは息を呑む美しさです。オハイオ川対岸のケンタッキー州コビントンにあるこの公園からは、シンシナティのスカイラインが一望できます。

特に日没の1時間前に訪れると、川面に映るビル群のシルエットが幻想的な光景を作り出します。地元のカップルたちの定番デートスポットでもあり、週末の夕方には必ず数組のカップルが景色を楽しんでいます。

隠れた路面電車の遺産

シンシナティには2016年からシンシナティ・ストリートカーという路面電車が運行していますが、実はこの街には19世紀後期から20世紀前半にかけて全米屈指の路面電車網がありました。現在でも街の各所にその痕跡が残っており、特にバイン・ストリート沿いには当時の線路跡を辿ることができます。

旅を終える前に気をつけたいこと

シンシナティ観光で注意したいのは、天候の急変です。オハイオ川流域特有の気候で、特に春と秋は1日の中で気温が20度近く変わることも珍しくありません。必ず重ね着できる服装を準備してください。

また、ダウンタウン地区は夜間でも比較的安全ですが、オーバー・ザ・ライン地区の一部は避けた方が無難です。美しい建築群に魅了されがちですが、地元の人に安全な散策ルートを確認することをお勧めします。

交通面では、シンシナティ/ノーザン・ケンタッキー国際空港から市内までは約20分、タクシーで35ドル程度。レンタカーを借りる場合、ダウンタウンの駐車料金は1日15-25ドルが相場です。

この街を訪れた人は必ず「また戻ってきたい」と思うはず。それほどまでに、シンシナティには人を引きつける不思議な魅力があるのです。