なぜメクネスは「忘れられた古都」なのか?
モロッコの四大古都といえば、マラケシュ、フェズ、ラバト、そしてメクネス。でも正直なところ、メクネスって他の3つに比べて影が薄いですよね?実際に私がカサブランカの空港でタクシー運転手に「メクネスに行きたい」と言ったとき、「フェズじゃなくて?」と聞き返されたほどです。
でも、それこそがメクネスの最大の魅力なんです。17世紀にムーライ・イスマイル皇帝が50年間かけて築き上げた壮大な皇帝都市が、観光地化されすぎることなく、ほぼ当時のまま残っている。これって実はとんでもないことなんです。
メディナで迷子になって気づいた真実
初日、私は見事にメディナ(旧市街)で迷子になりました。フェズほど複雑ではないと高を括っていたのですが、甘かった。でもその迷子体験が、メクネスの本当の姿を教えてくれたんです。
路地を彷徨っていると、バブ・マンスール門という巨大な門が突然現れました。高さ20メートル、幅15メートルという圧倒的なスケール。アラベスク模様とカリグラフィーで装飾されたこの門は、実は「世界で最も美しい門」と称されています。でも不思議なことに、この門は皇帝の死後、一度も開かれたことがないんです。
ヴォルビリス遺跡で体感する時空の歪み
メクネスから車で30分ほど北に向かうと、突然古代ローマの世界が広がります。ヴォルビリス遺跡は、モロッコにあるローマ帝国時代の都市遺跡で、保存状態は驚くほど良好です。
モザイクの美しさに言葉を失う瞬間
ここで私が衝撃を受けたのは、2000年前のモザイクがほぼ完璧な状態で残っていること。特に「ヘラクレスの12の功業」を描いたモザイクは、色鮮やかさが現代のタイルと変わりません。入場料は70ディルハム(約700円)で、朝8時から夕方6時まで開放されています。
でも本当に感動したのは、遺跡の向こうに見えるムーライ・イドリス・ゼルフン聖廟の白い建物群でした。古代ローマとイスラム文化が一つの景色に収まる瞬間って、世界中探してもそうそうないですよね。
皇帝の地下貯蔵庫で感じた権力の重さ
メクネス観光で絶対に外せないのが、カラ監獄とエリ・スワニ貯水池です。でもこの名前、実は誤解を招くんです。「監獄」という名前がついていますが、実際はムーライ・イスマイル皇帝が建設した巨大な穀物貯蔵庫なんです。
想像を絶するスケールの地下空間
地下に降りると、薄暗い空間に石造りのアーチが延々と続いています。全長は500メートル以上、高さは最大10メートル。この空間に皇帝は莫大な量の穀物を蓄えていました。なぜか?答えは単純で恐ろしい:完全な自給自足による永続的な支配のためです。
貯水池の方も圧巻です。25ヘクタール(東京ドーム5個分)の広さに、深さ3メートルの貯水施設。25キロ離れた山から水を引いていたというから驚きです。入場料は20ディルハム(約200円)、朝8時30分から夕方5時30分まで見学可能です。
知る人ぞ知る「ムーライ・イスマイル廟」の特権
イスラム圏では通常、非イスラム教徒は聖廟への立ち入りが禁止されています。でもメクネスのムーライ・イスマイル廟は例外的に、中庭まで入ることができるんです。これ、実はモロッコでも珍しいことなんです。
皇帝の眠る場所で感じた畏怖
白大理石で装飾された中庭、金細工が施された扉、そして厳粛な静寂。皇帝の棺が安置されている部屋の手前まで行くことができ、そこから漂ってくる薄暗い神秘性は言葉では表現できません。
ここで地元のガイドから聞いた話が興味深かったんです。ムーライ・イスマイル皇帝は888人の妻を持ち、1000人以上の子供がいたとか。でも彼が最も愛したのは建築と都市づくりだったそうです。メクネス全体が、ある意味で皇帝の巨大な作品なんですね。
スーク(市場)で遭遇した職人の魂
メクネスのスークは観光地化されていない分、本物の職人文化に出会えます。私が特に印象的だったのは、ゼリージュ(モザイクタイル)職人の工房でした。
1000年変わらない技法の継承
小さな工房で、職人のおじさんが手作業で色とりどりのタイルを作っていました。1つのタイルを作るのに15分、1日で作れるのは30枚程度。機械化の波に押されながらも、伝統技法を守り続ける姿に胸を打たれました。
そこで購入した小さなモザイク皿(150ディルハム、約1500円)は、今も我が家の宝物です。
メクネスで気をつけるべきこととは?
正直に書きます。メクネス観光には落とし穴があります。まず、偽ガイド問題。特にバブ・マンスール門周辺では、「公認ガイドです」と声をかけてくる人が多いのですが、本当の公認ガイドは身分証明書を携帯しています。必ず確認してください。
交通手段の現実を知っておこう
メクネスはフェズから電車で1時間、料金は2等席で25ディルハム(約250円)です。でも注意点があります。駅から旧市街までは約3キロ離れているんです。タクシーを使えば20ディルハム程度ですが、メーター使用を必ず確認してください。
私が実際に体験した失敗談をお話しします。夕方6時頃、ヴォルビリス遺跡からメクネスに戻ろうとしたとき、乗り合いタクシーが満員で1時間待たされました。遺跡見学は午後3時までに開始することをお勧めします。
メクネスでしか食べられない絶品グルメ
最後に、メクネス名物の話をしましょう。パスティーヤ・ビ・ル・フートという魚のパイは、メクネス独特の料理です。淡水魚を使った珍しいパスティーヤで、他の都市では食べられません。
地元民が通う隠れた名店
メディナの奥にある「レストラン・パレ」(営業時間:午前11時〜午後10時)では、このパスティーヤを80ディルハム(約800円)で味わえます。サクサクの生地と魚の旨味が絶妙で、私は滞在中3回も通いました。
また、メクネス産オリーブも絶品です。特に黒オリーブは他地域より肉厚で、塩味が上品。スークで1キロ30ディルハム(約300円)で購入できます。
最後に感じた皇帝都市の真実
3日間のメクネス滞在で気づいたのは、この街が「生きた博物館」だということでした。観光地として整備されすぎていない分、皇帝時代の息づかいが今も残っている。迷子になって困惑したあの瞬間も、今となっては貴重な体験だったと思います。
メクネスは確かに他の古都より地味かもしれません。でも、そのおかげで本物のモロッコ文化に触れられる。きっとあなたも、私と同じように「忘れられた古都」の虜になるはずです。