なぜバーンボーグル・デューンズは「世界一美しいゴルフコース」と呼ばれるのに初心者殺しなのか?

タスマニア島の北岸に佇むバーンボーグル・デューンズ ゴルフクラブは、ゴルファーなら一度は憧れる聖地です。しかし、この美しすぎるコースには思わぬ落とし穴が待っています。私が実際に体験した興奮と挫折、そして感動をお伝えしましょう。

「こんな場所にゴルフコース?」驚愕の立地条件

バーンボーグル・デューンズの美しい海岸線とゴルフコース

バーンボーグル・デューンズがあるのは、タスマニア島北部の小さな町バーニーから車で約45分の海岸沿い。初めて訪れた時、「本当にこんな辺鄙な場所に世界的なゴルフコースがあるの?」と半信半疑でした。

しかし、コースに足を踏み入れた瞬間、その疑問は確信に変わります。バス海峡を望む断崖絶壁に作られたこのコースは、まさに自然の芸術品。風に揺れる砂丘の草と青い海のコントラストは、写真では伝わらない圧倒的な美しさです。

実はこのコース、2000年の開場当初は地元の人々にとって「なぜこんな不便な場所に?」という疑問の声も多かったそうです。最寄りの空港はデボンポート空港で約30分、ローンセストン空港からは1時間30分。しかし今では世界中からゴルファーが巡礼のように訪れる理由が、プレーしてみるとよく分かります。

「風の読み方を知らないと地獄を見る?」プレー時の注意点

風の強いコースでのゴルフプレーの様子

バーンボーグル・デューンズで最も恐ろしいのは、実はバンカーでも池でもありません。それはバス海峡から吹き付ける強風です。私が初ラウンドした日、風速は15メートル。「少し強いかな」程度に考えていたのが大間違いでした。

特に有名な13番パー3は、海に向かって打つホール。距離は150ヤード程度なのに、風向きを読み間違えるとボールが海へ一直線。実際、私の同伴者は3球連続で海に消えました。プレー料金は1ラウンド300~400豪ドル(約3万円)なので、ボールロストは財布にも痛手です。

地元のキャディさんから教わった秘訣は、「風の音を聞くこと」。草の揺れ方、鳥の飛び方まで観察して風を読むそうです。都市部のゴルフ場では学べない、自然との対話がここでは必要不可欠なのです。

営業時間と予約の裏技

コースは通常朝6時30分からプレー可能で、最終スタートは夕方5時頃(季節により変動)。しかし知る人ぞ知る裏技があります。タスマニアの夏(12月~2月)は日没が午後9時頃まで続くため、夕方6時以降の「トワイライトラウンド」が狙い目。料金は通常の半額程度で、夕日に染まるコースは昼間とは別世界の美しさです。

「コース設計の天才トム・ドーク」の哲学とは?

バーンボーグル・デューンズのコース設計の特徴

このコースを設計したのは、アメリカの天才設計家トム・ドーク。彼の設計哲学は「自然を壊さず、活かす」ことです。実際、バーンボーグル・デューンズでは既存の砂丘をほとんど動かさず、自然の地形を巧みに利用しています。

最も印象的なのは7番パー4。ティーから見ると「フェアウェイがない!」と錯覚するほど、砂丘の起伏が激しいホールです。しかし実は、絶妙な場所にフェアウェイが隠されている。これがドーク設計の真骨頂なのです。

興味深いのは、ドーク氏がこのコースを設計する際、なんと1年間現地に滞在していたという事実。四季を通じて風向きや光の変化を観察し、「この土地が本来持っている美しさ」を最大限に引き出したのです。だからこそ、人工的な美しさではない、心に響く景観が生まれたのでしょう。

「まさか羊がハザード?」コース内の思わぬ住民たち

ゴルフコースに現れる野生動物

バーンボーグル・デューンズには、他のゴルフ場では考えられない「生きたハザード」が存在します。それが放し飼いの羊たちです。コース内に約200頭の羊が自由に歩き回り、天然の芝刈り機として活躍しています。

私が体験した珍事件は、15番ホールでのこと。セカンドショットを打とうとしたら、羊の群れがグリーン周辺を占拠。ルール上、動物は動かせないので、羊が移動するまで約10分待つことに。同伴者と「羊待ち」なんて、都市部では絶対に経験できない貴重な時間でした。

さらに驚くべきは、ウォンバットの存在です。タスマニア固有の動物で、夕方のラウンドでは頻繁に目撃できます。彼らが掘った穴は天然のバンカーとなり、時にはプレーに影響することも。地元スタッフは「ウォンバット・ホール」と呼んで親しんでいます。

「アクセスの悪さが最高の魅力?」到達までの冒険

タスマニアの美しい景色とアクセス道路

メルボルンからタスマニアへは飛行機で約1時間、そこから車でさらに1時間弱。一見不便に思えるアクセスですが、これこそがバーンボーグル・デューンズの真の魅力なのです。

途中の道中で出会うのは、タスマニアンデビルの道路標識や、見渡す限りの牧草地帯。都市の喧騒から完全に切り離された環境だからこそ、ゴルフに完全集中できるのです。私は最初「なぜこんな辺鄙な場所に?」と思いましたが、今では「だからこそ特別」と確信しています。

宿泊は近隣のバーンボーグル・ロッジがおすすめ。1泊200豪ドル程度で、コースまで徒歩5分という立地です。夜は満天の星空の下、同宿の世界各国のゴルファーたちと語り合う時間も、この旅の醍醐味の一つでしょう。

プレー後の楽しみ方

ラウンド後のクラブハウスでは、タスマニア産のワインとシーフードが絶品です。特に地元で獲れた牡蠣は、プレーの疲れを癒してくれる最高のご褒美。窓から見える夕日と海の景色を眺めながらの一杯は、きっと忘れられない思い出になるでしょう。

バーンボーグル・デューンズは確かに初心者には厳しいコースです。しかし、その厳しさの先にある感動と美しさは、ゴルフ人生において特別な1ページとなること間違いありません。世界の果てで体験する究極のゴルフ、ぜひ一度挑戦してみてください。