あなたも憧れの全米オープン会場でプレーできる?
ニューヨーク州ロチェスターにあるオークヒル・カントリークラブは、ゴルフ好きなら一度は憧れる聖地です。1924年に開場したこのコースは、なんと全米オープンを3回(1956年、1968年、1989年、2013年)も開催した名門中の名門。しかし、実際にプレーしてみると「こんなはずじゃなかった」という声も続出するのです。その理由を、私の実体験とともにお伝えします。
オークヒルの最大の特徴は、コース設計の巧妙さにあります。一見すると美しく整備された緑豊かなコースですが、プレーしてみると戦略性の高さに驚かされます。特に18番ホールは「イースト・エンド」と呼ばれ、多くのプロゴルファーがここで涙を飲んできました。
恐怖のラフに隠された設計者の意図とは?
オークヒルで最も印象的なのは、その容赦ないラフです。フェアウェイを少しでも外すと、膝丈ほどもある深い草に球が埋もれてしまいます。私が初めてプレーした際、3番ホールでドライバーショットがわずか5ヤードほど左に逸れただけで、ボールを見つけるのに10分近くかかりました。
実はこれ、設計者のドナルド・ロス(後にロバート・トレント・ジョーンズ・シニアが改修)の意図なのです。「正確性こそがゴルフの真髄」という哲学のもと、飛距離よりも精度を重視した設計になっています。全米オープン開催時には、このラフがさらに伸ばされ、世界最高峰のプロたちでさえ苦戦することで有名です。
興味深いのは、地元のメンバーたちは「ラフを避けるコツ」を熟知していることです。彼らによると、各ホールには「安全な着地エリア」が存在し、それを知っているかどうかでスコアが大きく変わるそうです。
料金とアクセス、実は意外とハードルが低い?
多くの人が「名門コースは高嶺の花」と思いがちですが、オークヒルは意外とアクセスしやすいのが特徴です。ビジター料金は平日約200ドル、週末約300ドル(2023年現在)で、確かに安くはありませんが、全米オープン会場としては良心的な価格設定です。
ロチェスター・グレーター・ロチェスター国際空港から車で約20分という立地も魅力の一つ。ニューヨーク市内からは車で約5時間の距離にあります。私は前日にロチェスター市内のホテルに宿泊し、朝8時のティータイムに備えました。
予約は公式ウェブサイトまたは電話で可能ですが、特に夏季(6月~9月)は2週間前の予約をおすすめします。ドレスコードは厳格で、襟付きシャツとゴルフパンツ、ゴルフシューズが必須。デニムやTシャツでの入場は認められません。
プロも恐れる18番ホール、その攻略法は?
オークヒルの代名詞ともいえる18番パー4「イースト・エンド」は、多くのゴルファーにとって悪夢のようなホールです。距離は458ヤード(チャンピオンティー)と決して長くありませんが、フェアウェイ右側に大きな木が立ちはだかり、左サイドは深いラフが待ち受けています。
このホールで最も印象的な出来事は、1989年の全米オープンでカーティス・ストレンジが見せた「安全第一」の戦略です。彼は最終日、優勝がかかった場面でドライバーではなく5番アイアンを選択。確実にフェアウェイキープし、パーで上がって優勝を決めました。
地元のプロによると、アマチュアゴルファーの攻略法は「欲を出さないこと」だそうです。ドライバーで飛ばそうとせず、ユーティリティクラブでフェアウェイ中央を狙う。そして2打目は確実にグリーンに乗せることを最優先にする。この「つまらない」戦略こそが、オークヒルを征する鍵なのです。
知られざるオークヒルの魅力と隠れたスポット
オークヒルの魅力は難易度だけではありません。クラブハウス内にある歴史展示コーナーでは、過去の全米オープンで使用されたピンフラッグや優勝トロフィーのレプリカが展示されており、ゴルフ史に触れることができます。特に1968年の全米オープンでリー・トレビノが初優勝を飾った際の写真は、多くの来場者が見入っています。
あまり知られていない事実として、オークヒルは環境保護にも力を入れている点があります。コース内には絶滅危惧種の野鳥が生息しており、特定のエリアは野鳥保護区域に指定されています。プレー中に美しい鳴き声が聞こえてくるのは、この取り組みの成果なのです。
クラブハウスのレストランでは、地元ロチェスター名物の「プレート・ランチ」を味わうことができます。これはハンバーガーパティ、フライドポテト、マカロニサラダを一皿に盛った地元のソウルフードで、プレー後の疲れた体には格別の美味しさです。
また、練習場にはトラックマン(弾道測定器)が設置されており、自分のショットデータを詳細に分析できます。これは多くのパブリックコースでは体験できない贅沢な設備です。
オークヒルで学んだゴルフの本質
オークヒルでのプレーを通じて痛感したのは、「ゴルフは飛距離ではなく戦略」ということでした。私自身、普段は飛ばし屋を自負していましたが、このコースではドライバーを使ったのはわずか5ホールほど。それでも十分に楽しめ、むしろゴルフの奥深さを再認識できました。
スコアは正直お見せできないほど悲惨でしたが、各ホールで直面する戦略的判断の連続は、まさに「チェスのような頭脳戦」でした。特に風の強い日だったため、番手選択一つ一つが勝負の分かれ目となり、プロゴルファーの凄さを身をもって理解できました。
オークヒルは確かに難しいコースですが、それゆえに得られる達成感と学びは格別です。ゴルフの技術向上を真剣に考えているなら、一度は挑戦してみる価値のある聖地といえるでしょう。ただし、スコアへの期待は程々にして、純粋に「ゴルフというスポーツの本質」を味わいに行くことをおすすめします。