メルボルン近郊の「知る人ぞ知る」難コース?
オーストラリア・メルボルンから車で約40分の場所にあるキングストン・ヒースゴルフクラブ。ロイヤルメルボルンやキングスウェイほど有名ではありませんが、地元ゴルファーの間では「真の実力が試される隠れた名門」として知られています。私が初めてここを訪れたのは、現地の友人から「君のスコアが10打は悪くなる」と挑発されたのがきっかけでした。
モーニントン半島の入口に位置するこのコースは、1925年に開設された歴史あるクラブです。海からの風と砂地特有のファームウェイが織りなす難易度は、確かに私の予想を大きく上回るものでした。
予約から当日まで – 思わぬハードルが?
キングストン・ヒースは完全なプライベートコースではありませんが、事前予約が絶対必要です。料金は平日で80豪ドル、週末は120豪ドル程度(時期により変動)。メルボルン市内からは車で約40分、公共交通機関利用なら電車とタクシーを乗り継いで1時間半ほどかかります。
驚いたのは、ドレスコードの厳格さでした。「襟付きシャツ必須、デニム禁止」は当然として、「ソックスは白または単色のみ」という細かい規定まで。私は持参した黒いソックスでクリアしましたが、同伴者がカラフルなソックスを履いていて、プロショップで急遽購入する羽目になりました。
営業時間は日の出から日の入りまでと自然に準拠しており、夏場(12-2月)なら朝6時から夜8時頃まで、冬場(6-8月)は朝7時から夕方5時半頃までプレー可能です。
1番ホールから感じた「別格の洗礼」
1番ホールに立った瞬間、このコースの特異性を実感しました。フェアウェイが異常に狭いのです。距離は380ヤードとそれほど長くないのに、両サイドの巨大なティーツリーが威圧的に迫ってきます。
さらに驚いたのが、グリーンの硬さです。地元の友人いわく「夏場は特に、ピンポン玉が跳ね返るほど硬くなる」とのこと。実際、私の2打目は完璧にピンをデッドに狙ったにも関わらず、グリーン奥15ヤードまで転がっていきました。
このコース特有の「砂地のファームウェイ」も曲者です。雨が降らない日が続くと表面が硬く締まり、ボールが予想以上に転がります。逆に雨の翌日は、思った以上にボールが沈み込んで距離が出ません。天候によってまったく別のコースになる、それがキングストン・ヒースの真の難しさなのです。
名物ホールで味わった「心折れそうな瞬間」
このコースの13番パー4(通称「デビルズ・エルボー」)は、私がゴルフを始めて以来、最も苦戦したホールの一つです。距離は420ヤードと長めですが、真の難しさはレイアウトにあります。
ティーショットはブラインドで、200ヤード先で左に90度曲がるドッグレッグ。しかも角の内側には深いバンカーが3つも待ち構えています。「安全にレイアウトして」とキャディーにアドバイスされたにも関わらず、欲を出してショートカットを狙った私は、見事に一番大きなバンカーに捕まってしまいました。
そのバンカーの深さがまた尋常ではありません。底に立つとピンフラッグが見えないほどの深さで、3打目、4打目とバンカーから出すだけで精一杯。結局このホールは9打という、人生最悪のスコアを記録しました。
意外な発見 – コース設計の巧妙な「罠」
プレー後にクラブハウスで聞いた話では、キングストン・ヒースの設計者は「視覚的な錯覚」を意図的に取り入れているそうです。例えば、実際より狭く見えるホールがあれば、逆に実際より広く見せかけて油断を誘うホールもある。
特に印象的だったのが7番ホールです。ティーグラウンドから見ると左サイドのハザードが気になりますが、実は右サイドの見えない位置に巧妙に池が配置されています。「左を嫌がって右に打つと、隠れた池にダイレクト」というコース設計者の巧妙な罠にまんまとハマってしまいました。
地元のプロに後で聞いたところ、「このコースは3回以上プレーしないと本当の攻略法は分からない」と言われているそうです。初回は必ず惨敗する、それが当たり前という設計思想が貫かれているのです。
クラブハウスで聞いた「地元ゴルファーだけが知る裏話」
プレー後、クラブハウスのバーで地元の常連ゴルファーと話す機会がありました。そこで聞いた興味深い話があります。実は、キングストン・ヒースは冬場の方が難しくなるというのです。
理由は海からの風です。夏場は比較的穏やかですが、6月から8月にかけては南極から吹き上げる強風が直接コースを襲います。「風速10メートルなんて日常茶飯事。15メートルを超える日もある」と常連の方が教えてくれました。私が訪れたのは3月だったので、まだ「優しい時期」だったようです。
また、このコースには野生のカンガルーが頻繁に現れるという意外な一面もあります。早朝のスタート時間帯(朝7時前)には、フェアウェイで草を食むカンガルーファミリーに遭遇することがあるそうです。「ボールがカンガルーの近くに落ちたら、無罰でドロップできる特別ルールがある」という話には思わず笑ってしまいました。
再挑戦への想いと実用的なアドバイス
結果的に、友人の予告通り普段より12打もスコアが悪化した私のキングストン・ヒース初体験。しかし、不思議と悔しさよりも「もう一度挑戦したい」という気持ちが強くなりました。
これからキングストン・ヒースに挑戦される方へのアドバイスとして、まずは謙虚な気持ちでコースに臨むことをお勧めします。普段より1番手上のクラブを選択し、グリーンは必ず手前から攻める。そして何より、「初回は勉強代」と割り切ることです。
クラブハウスのレストランでいただいたバラマンディの塩焼きは絶品で、敗戦の痛みを少しだけ癒してくれました。料理も含めて、キングストン・ヒースは「ゴルフ以上の体験」を提供してくれる場所だと感じています。
メルボルン滞在中、もし時間に余裕があるなら、このコースでの「洗礼」を受けてみてください。きっと、ゴルフに対する新しい視点が得られるはずです。