なぜ多くのゴルファーがクルーデン・ベイで挫折するのか?
スコットランド北東部アバディーンシャー州にあるクルーデン・ベイ ゴルフクラブ。ここは「美しい景色を楽しめるリゾートゴルフ場」なんて甘い認識で訪れると、確実に痛い目に遭います。私も実際にその洗礼を受けた一人です。
このコースの最大の特徴は、北海に面した断崖絶壁に設計された18ホールすべてが、容赦ない海風にさらされること。風速10メートルなんて日常茶飯事で、時には20メートルを超える突風が吹き荒れます。普段150ヤード飛ばせるクラブが、風向きによっては100ヤードしか飛ばない、なんてことが頻繁に起こるのです。
料金は平日で約80ポンド(約15,000円)、週末は100ポンド超と決して安くありませんが、この厳しさを味わうためなら妥当な価格設定かもしれません。
1895年創設の老舗コースが隠す「意外な設計思想」とは?
クルーデン・ベイ ゴルフクラブは1895年に創設された歴史あるコースですが、実は設計に携わったトム・シンプソンには独特の哲学がありました。彼は「ゴルフは自然との対話であり、人工的な美しさよりも自然の厳しさの中でこそ真の技術が磨かれる」と考えていたのです。
そのため、このコースには一般的なゴルフ場でよく見かける人工的なハザードがほとんどありません。代わりに自然の起伏、海風、そしてヘザー(エリカ科の低木)が天然のハザードとして配置されています。特にこのヘザーが曲者で、一度ボールが入り込むと見つけるのも困難、さらにクラブを振り抜くのも至難の業です。
営業時間は朝7時から日没まで(夏期は21時頃まで)と長く、特に夏の「ホワイトナイト」の時期には、20時過ぎでも薄明かりの中でプレーすることができます。
アクセスで知っておきたい「隠れた難所」
アバディーン空港から車で約45分、最寄りの町クルーデン・ベイまでは一見簡単そうに見えるアクセスですが、実は隠れた難所があります。それはA90からA952への分岐点。カーナビの精度が悪いエリアとして地元でも有名で、多くの観光客がここで道に迷います。
私も初回訪問時に30分ほどロスしましたが、地元の方に聞くと「エルロンの村を通り過ぎたら行き過ぎ」というのが目安だそうです。レンタカーを借りる際は、必ず最新の地図データが入ったGPSを選ぶか、スマートフォンのオフライン地図をダウンロードしておくことをおすすめします。
公共交通機関を使う場合、アバディーンからクルーデン・ベイまでバスが運行していますが、1日3〜4便と本数が限られているため、事前の時刻表確認は必須です。
プレー当日に直面する「想定外の試練」
実際にプレーを始めると、想定以上の困難が待ち受けています。まず第1ホールから海に向かって打ち下ろすホールですが、ここで多くのプレーヤーが風の読みを誤ります。海からの風は絶えず方向が変わるため、ティーグラウンドで感じる風向きと、ボールが最高点に達する際の風向きが全く異なることが珍しくありません。
特に印象的だったのは9番ホール「ブルーマン」。パー4の396ヤードという距離は決して長くありませんが、グリーンまでの道のりに3つの大きな起伏があり、それぞれで風の影響が変わります。現地のキャディさんに聞くと「このホールだけで4つのクラブを使い分ける必要がある」とのことでした。
また、グリーンの芝質も独特です。海風の影響で常に乾燥気味になるため、ボールの転がりが想像以上に速く、慎重なパッティングが要求されます。
クラブハウスで味わう「真のスコティッシュ・ホスピタリティ」
厳しいコースでの18ホールを終えた後、クラブハウスでの時間は格別です。特に「カレン・スキンク」(スコットランド伝統の鶏のスープ)と地元アバディーンシャー産の牛肉を使ったステーキは、冷え切った体を温めてくれる最高のご褒美でした。
クラブハウスのバーテンダーであるマクレオドさんは、このコースで40年以上働いているベテランで、彼から聞いた興味深い話があります。「1960年代まで、このコースでは羊が放し飼いにされていて、天然の芝刈り機として活用されていた」というのです。現在でもコースの一部で羊の群れを見かけることがあり、プレー中に羊がフェアウェイを横切ることもあります。
また、クラブハウスには歴代の名プレーヤーたちの写真が飾られていますが、その中には1920年代に女性として初めてこのコースでパープレーを達成したメアリー・マクドナルドの写真もあります。当時は女性のゴルフプレーに対して厳しい制約があった中での快挙だったそうです。
帰路で気づく「本当の収穫」とは?
クルーデン・ベイでのラウンドを終えて帰路につく頃、スコアカードの数字以上に大きな収穫があることに気づきます。それは「自然に対する謙虚さ」を学ぶということです。
日本の多くのゴルフ場では、ある程度天候や風をコントロールした環境でプレーできますが、ここでは完全に自然のルールに従わなければなりません。風を読み違えれば大叩き、グリーンの速さを侮れば3パット、4パットは当たり前。そんな厳しい条件の中で、1つでも良いショットが打てた時の達成感は格別です。
地元のプロに「このコースでアンダーパーを出すコツは?」と尋ねたところ、「コースに勝とうとするのではなく、コースから学ぼうとする姿勢が大切」という答えが返ってきました。まさにスコットランドゴルフの真髄を表した言葉だと感じました。
次回スコットランドを訪れる際は、必ずまたクルーデン・ベイに戻ってきたいと思います。今度はもう少し風を読めるようになっているでしょうか。それとも、コースの方が私よりも一枚上手なのでしょうか。その答えを確かめるのが、今から楽しみでなりません。