まさかここまで過酷だとは…スコットランドの名門コースの洗礼
スコットランド西海岸のターンベリー。その美しさに魅せられて予約を取ったものの、実際にラウンドしてみると想像を遥かに超える試練が待っていました。アイルサ島を望む絶景に心を奪われていたのも束の間、強烈な海風と起伏に富んだフェアウェイが容赦なく襲いかかってきたのです。
ターンベリーのエルサコース(Ailsa Course)は、1977年の全英オープンでトム・ワトソンとジャック・ニクラウスが繰り広げた「世紀の決闘」の舞台として知られています。しかし、実際にプレーしてみると、プロゴルファーたちがいかに超人的な技術を持っているかを痛感させられることになりました。
予約の段階で気づくべきだった?料金とアクセスの現実
ターンベリーでのラウンド料金は、季節によって大きく変動します。夏場のピーク時には1ラウンド約400ポンド(約7万円)という高額な料金設定。これにキャディフィー(必須ではありませんが推奨)を加えると、さらに50-80ポンドが必要です。
アクセスは意外と複雑で、グラスゴー空港から車で約1時間30分。公共交通機関を使う場合は、グラスゴーからエア(Ayr)まで電車で移動し、そこからタクシーで約20分という道のりです。私は事前にレンタカーを手配していましたが、左側通行に慣れない中での運転は想像以上に神経を使いました。
営業時間は季節によって異なりますが、夏場は朝7時から夜8時頃まで。ただし、スコットランドの天気は変わりやすく、予約していても強風や雨で突然クローズになる可能性があることを覚悟しておく必要があります。
悪夢の9番ホール…なぜ「ブルース城」と呼ばれるのか?
ターンベリーの9番ホール(通称「ブルース城」)は、多くのゴルファーが恐れる難関です。このホールの名前は、ロバート・ザ・ブルース(スコットランド王)の生誕地とされる城の遺跡に由来しています。しかし、歴史ロマンに浸っている余裕などありません。
Par4、432ヤードのこのホールは、ティーショットを海に向かって打つ設計になっています。しかも、フェアウェイは狭く、右側は断崖絶壁、左側はラフとバンカーが待ち受けています。私が実際にプレーした日は、海からの横風が時速40キロ近く吹いており、計算通りにボールが飛んでくれませんでした。
最も厄介なのは、2打目以降です。グリーン周りは複雑なアンジュレーションがあり、ピンの位置によっては3パット、4パットも珍しくありません。地元のキャディさんに聞いたところ、「プロでもここでトリプルボギーを叩くことがある」とのことでした。
実は戦時中は軍事基地だった?ターンベリーの知られざる歴史
多くの人が知らないターンベリーの秘密の一つが、第一次世界大戦と第二次世界大戦中の軍事利用です。実は現在のゴルフコースがある場所は、英国海軍航空隊の訓練基地として使用されていました。
第二次世界大戦中には、ここで多くのパイロットが厳しい訓練を受けており、現在でもコース内に当時の滑走路の一部が残っています。クラブハウスのロビーには、この歴史を物語る写真や資料が展示されており、ゴルフをする前に見学すると、このコースに対する見方が変わるかもしれません。
戦後、コースを元の状態に復旧するのに数年を要したそうで、現在私たちが楽しめるのも、多くの人々の努力があったからこそなのです。特に1951年に全英オープンが開催された際は、完全復旧の象徴的な意味もあったと言われています。
地元キャディが教えてくれた攻略法と隠れた名物
ターンベリーを攻略するためには、地元キャディの存在が欠かせません。私を担当してくれたジョンさん(キャディ歴25年)は、「風を読むことがすべて」と教えてくれました。
海風は常に変化しているため、前の組のプレーを見ているだけでは不十分。ジョンさんによると、芝の動きや海の波の状況を見て風向きと強さを判断するのがコツだそうです。
また、ターンベリーならではの隠れた名物がクラブハウスのカレン・スープです。これは地元で採れる海藻を使った伝統的なスコットランド料理で、ラウンド後の疲れた体に染み渡る美味しさでした。多くの観光客が見逃しがちですが、地元のゴルファーたちの間では「ターンベリーに来たら必ず飲むもの」として親しまれています。
ジョンさんはまた、「18番ホールのティーショットを打つ前に、必ず一度深呼吸をしろ」とアドバイスしてくれました。このホールは海に向かって打つ最終ホールで、プレッシャーと美しい景色で気持ちが高ぶりがちだからです。
想像以上に体力勝負?スコットランドゴルフの洗礼
ターンベリーでのラウンドで最も予想外だったのは、その体力的な厳しさでした。アップダウンが激しく、18ホール歩き通すと相当な運動量になります。しかも、海風に立ち向かうためには、普段よりも力強いスイングが必要で、後半には腕がパンパンになってしまいました。
地元のプロショップスタッフによると、ターンベリーを初めてプレーする人の多くが「こんなにタフだとは思わなかった」と口にするそうです。特に日本のゴルフ場に慣れている私たちには、カートなしでのプレーは想像以上の挑戦でした。
それでも、苦労の末にパーを取ったときの喜びは格別です。16番ホールでようやく初パーを記録できたときは、キャディのジョンさんと一緒にガッツポーズをしてしまいました。
帰国後も忘れられない…ターンベリーが与えてくれたもの
結局、私のスコアは目も当てられないものでしたが、ターンベリーでの体験は何物にも代えがたい財産となりました。自然との真剣勝負という、日本では味わえない緊張感と達成感がありました。
特に印象深かったのは、ラウンド後にクラブハウスのテラスでアイルサ島に沈む夕日を眺めながら飲んだウイスキーの味です。体は疲れ切っていましたが、心は満足感で満たされていました。
帰国してから地元のゴルフ場でプレーすると、「あのターンベリーに比べたら」という気持ちになり、少しの風や傾斜では動じなくなりました。ターンベリーは確かに過酷でしたが、ゴルファーとしての精神力を確実に鍛えてくれた貴重な体験だったのです。
スコットランドゴルフの聖地・ターンベリー。きっとまた挑戦したくなる、そんな魔力を持ったコースでした。