カナダの首都オタワは、トロントやバンクーバーと比べて「地味で退屈」という評判をよく耳にします。実際に現地を訪れてみると、確かに華やかさには欠けるかもしれません。しかし、この街にはメジャーな観光都市にはない独特の魅力が隠されていました。今回は3日間のオタワ滞在で発見した、予想外の面白さと注意すべきポイントをお伝えします。
パーラメントヒルで感じた「生きた政治」の迫力
オタワ観光の定番といえば、やはりパーラメントヒルの国会議事堂です。ただし、ここで多くの旅行者が見落としがちなのが、実際の議会セッションを傍聴できるということ。
私が訪れた平日の午後2時頃、下院議場では実際に国会議員たちが激しい議論を交わしていました。入場は無料で、パスポートを提示するだけで傍聴席に案内されます。英語とフランス語が飛び交う生の政治の現場は、想像以上に迫力がありました。
ただし注意点があります。セキュリティチェックが非常に厳しく、入場まで最低30分は見込んでおく必要があります。また、議会が開かれていない時期(7月中旬〜9月上旬、12月下旬〜1月下旬)は傍聴できません。事前に公式サイトでスケジュールを確認することを強くおすすめします。
リドー運河の意外な楽しみ方とは?
世界遺産にも登録されているリドー運河は、夏と冬で全く違った表情を見せてくれます。多くのガイドブックでは夏のボートクルーズが紹介されていますが、実は冬の楽しみ方の方が圧倒的にユニークです。
1月から3月にかけて、運河は完全に凍結し、世界最長の天然スケートリンクに変身します。全長7.8キロメートルにわたって地元の人々がスケートを楽しむ光景は、まさにカナダらしい冬の風物詩。スケート靴のレンタルは運河沿いの複数の場所で可能で、1日15カナダドル程度です。
夏場のボートクルーズは確かに美しいのですが、正直なところ景色の変化に乏しく、1時間のツアーが長く感じられました。料金も大人28カナダドルと決して安くないので、時間に余裕がない場合は運河沿いを歩くだけでも十分楽しめます。
バイワードマーケットで遭遇した「食の罠」
オタワのグルメスポットとして必ず名前が挙がるバイワードマーケット。しかし、ここには観光客向けの「罠」が潜んでいます。
メインストリートに面したレストランの多くは、観光客価格で味もそれなりです。地元の人に教えてもらったのですが、本当に美味しい店は一本裏の通りにあります。特にプーティン(フライドポテトにグレービーソースとチーズカードをかけたカナダの名物料理)を食べるなら、市場の北東角にある小さなスタンドが絶品です。観光地価格の半額以下の8カナダドルで、地元の人が行列を作る本格的な味を楽しめます。
マーケットは毎日営業していますが、最も活気があるのは金曜日から日曜日の午前中です。平日の夕方以降は閉まっている店も多いので、訪問時間には注意が必要です。
カナダ国立美術館で発見した意外な日本コレクション
カナダ国立美術館は、外観の独特なガラス建築で有名ですが、館内に日本美術の充実したコレクションがあることはあまり知られていません。
3階の現代美術セクションには、草間彌生や村上隆の作品が常設展示されており、入場料(大人16カナダドル)を払う価値は十分にあります。特に驚いたのは、江戸時代の浮世絵コレクションの質の高さです。北斎や広重の名作が、カナダの首都で丁寧に保存・展示されている様子を見ると、なんだか不思議な気持ちになります。
美術館は火曜日が休館日で、木曜日の午後5時以降は入場料が半額になります。オタワ市内中心部から徒歩15分ほどの立地で、リドー運河からも近いので、運河観光と合わせて訪れるのが効率的です。
オタワ観光で実際に困ったこと
最後に、実際の旅行で遭遇した問題点をお伝えします。オタワは想像以上に公共交通機関が不便でした。バスの本数が少なく、特に日曜日は30分に1本程度しか走りません。観光地間の移動には予想以上に時間がかかるので、タクシーやUberの利用も視野に入れておいたほうが良いでしょう。
また、多くの観光施設が月曜日に休館するため、月曜日に到着する場合は事前の計画が重要です。レストランも日曜日の夜は早めに閉まる店が多く、夕食の場所探しに苦労しました。
オタワは確かに派手な観光地ではありませんが、カナダという国の本質を静かに感じられる貴重な場所です。急ぎ足で回る観光地ではなく、ゆっくりと時間をかけて街の空気を味わう場所として考えると、意外な発見と出会えるはずです。
地元民だけが知る隠れスポット「リドーフォールズ」
観光ガイドにはほとんど載っていない場所ですが、リドーフォールズは地元の人々の憩いの場として愛され続けています。オタワ川とリドー川の合流地点にある小さな滝で、市内中心部から徒歩わずか10分という立地の良さが魅力です。
特に夕方の時間帯は、仕事帰りの地元の人たちがベンチに座って静かに過ごしている光景を見ることができます。観光地特有の慌ただしさがなく、本当のオタワの日常を垣間見られる貴重なスポットです。滝の音を聞きながらコーヒーを飲む時間は、忙しい観光スケジュールの合間の良い休憩になりました。
カナダ戦争博物館で感じた重厚な歴史
カナダ戦争博物館は、カナダの軍事史を網羅的に展示している施設です。入場料は17カナダドルと少し高めですが、展示の充実度を考えると妥当な価格だと感じました。
最も印象に残ったのは、第一次世界大戦のヴィミーリッジの戦いを再現したジオラマです。カナダが独立国として国際的に認められるきっかけとなったこの戦いについて、多角的な視点で学ぶことができます。日本ではなかなか知る機会のないカナダの歴史を深く理解できる貴重な機会でした。
博物館は月曜日が休館日で、平日は午前9時から午後5時まで、週末は午前9時30分から午後6時まで開館しています。市内中心部からバスで約20分の立地で、レストランやカフェも併設されているため、ゆっくりと時間をかけて見学することができます。
オタワ滞在で学んだ「退屈さ」の正体
3日間のオタワ滞在を通じて分かったのは、この街が「つまらない」と言われる理由は、表面的な刺激の少なさにあるということです。しかし、その静けさの中にこそ、カナダという国の真の姿が隠れているように感じました。
政治の中心地でありながら威圧的でなく、歴史を大切にしながらも堅苦しくない。そんなオタワの人々の暮らしぶりは、日本の慌ただしい日常とは対極にある穏やかさがありました。派手な観光地を求める人には物足りないかもしれませんが、本当の意味でのカナダらしさを体験したい人には、これ以上ない場所だと確信しています。