まさか要塞都市全体が世界遺産?ヴァレッタの驚くべき正体
マルタの首都ヴァレッタは、単なる観光地ではありません。実は都市全体が世界遺産に登録されている、地中海に浮かぶ奇跡の要塞都市なのです。
私が初めてヴァレッタを訪れたとき、その圧倒的なスケールに言葉を失いました。16世紀にマルタ騎士団によって建設されたこの都市は、わずか0.8平方キロメートルの半島に、まるで宝石箱のような美しさを凝縮しています。
空港からヴァレッタまでは約30分。バスなら2ユーロ程度で到着できますが、タクシーを利用すると15~20ユーロかかります。しかし、海上からヴァレッタの全景を眺めるハーバークルーズ(12~15ユーロ)から始めることを強くおすすめします。なぜなら、陸から見るのとは全く違う、要塞都市の真の姿を目の当たりにできるからです。
聖ヨハネ大聖堂の床に眠る騎士たちの謎
聖ヨハネ大聖堂は、ヴァレッタ観光の最大のハイライトです。入場料は15ユーロ(オーディオガイド込み)、開館時間は月曜から土曜の9:30~16:30(日曜は閉館)。
しかし、ほとんどの観光客が見落としているのが「床の秘密」です。大聖堂の床一面には、約400体の騎士たちが眠る墓石がモザイク状に敷き詰められています。よく見ると、それぞれの墓石に刻まれた紋章や装飾が異なることに気づくでしょう。
特に注目すべきは、カラヴァッジョの傑作「洗礼者ヨハネの斬首」です。この絵画の右下隅に、カラヴァッジョが唯一サインを残した作品として知られていますが、実はこの絵の背後にも興味深い逸話があります。カラヴァッジョは殺人罪でローマから逃亡中にマルタにたどり着き、騎士団の庇護を受けながらこの作品を描いたのです。
騎士団長の宮殿で発見!隠された「タペストリーの間」
騎士団長の宮殿(現在のマルタ大統領府)は、10ユーロで見学可能です。開館時間は9:00~17:00(最終入場16:30)。
一般的な観光コースでは武器庫や大広間を見学しますが、実は宮殿には一般公開されていない「隠し部屋」の存在が知られています。18世紀の改修工事の際に発見されたこの部屋には、騎士団の機密文書や財宝の一部が保管されていたとされています。
現在見学できるタペストリーの間では、オスマン帝国との戦いを描いた巨大なタペストリーが展示されていますが、よく観察すると、タペストリーの縁に小さな「修復マーク」があることに気づくでしょう。これは第二次世界大戦中の爆撃で損傷した部分を示しており、マルタ島の激動の歴史を物語っています。
アッパー・バラッカ・ガーデンズの「正午の儀式」を見逃すな
アッパー・バラッカ・ガーデンズは入場無料で、24時間開放されています。ここからグランド・ハーバーを一望できる絶景スポットですが、多くの観光客が知らないのが「正午の大砲儀式」です。
毎日正午と午後4時に、サルーティング・バッテリーから大砲が発射されます。この伝統は騎士団時代から続いており、かつては時刻を知らせる重要な役割を果たしていました。大砲の轟音は想像以上に迫力があるので、心の準備をしておいてください。
さらにマニアックな情報として、バラッカ・ガーデンズの柱廊の柱には、それぞれ異なる騎士の名前が刻まれています。これは第一次世界大戦で戦死したマルタ出身の兵士たちを追悼するためのもので、観光ガイドブックにはほとんど記載されていない事実です。
ストリート・フードから高級レストランまで、ヴァレッタの美食体験
ヴァレッタの食文化は、地中海の交差点としての歴史を反映した多様性に満ちています。パスティッツィ(チーズまたはえんどう豆のペーストが入ったパイ)は1個0.50ユーロから購入でき、地元の人々が通うカフェテリアで味わうのがおすすめです。
リパブリック・ストリート沿いの「Crystal Palace」は地元民御用達のパスティッツィ専門店で、朝6時から営業しています。観光客向けのレストランとは一線を画した、本物の味を楽しめます。
一方、特別な夜を演出したいなら「Legligin Wine Bar & Restaurant」がイチオシです。16世紀の建物を改装したこのレストランでは、マルタ産ワインと地中海料理のペアリングが楽しめます。メインディッシュは25~35ユーロ程度で、事前予約が必須です。
意外に知られていないのが、マルタの伝統的な蜂蜜酒「ミード」です。騎士団時代から作られているこの酒は、一部の専門店でしか購入できない貴重品。「Ta’ Qali Crafts Village」まで足を延ばせば、職人が作る本格的なミードを試飲できます。
夜のヴァレッタで体験する「騎士の足音」
日が沈んだ後のヴァレッタは、昼間とは全く違う表情を見せます。街灯に照らされた石畳の路地を歩いていると、まるで騎士たちの足音が聞こえてくるような錯覚に陥ります。
特に「ストレート・ストリート」(Republic Street)の夜歩きは格別です。この通りは騎士団時代の都市計画により、完全に直線で設計されており、夜間のライトアップが石造りの建物を幻想的に浮かび上がらせます。
治安は非常に良好で、夜の10時頃まで安心して散策できますが、石畳は滑りやすいので歩きやすい靴を着用してください。
最後に知っておきたい「ヴァレッタの隠れた真実」
ヴァレッタには、ガイドブックに載らない興味深い事実があります。実は、この都市の建設には日本の技術が関わっているのです。1960年代の大規模修復工事において、日本の石工技術が採用され、現在も一部の建物でその技法を見ることができます。
また、ヴァレッタの地下には巨大な貯水システムが張り巡らされており、騎士団時代の工学技術の高さを物語っています。現在も一部が稼働しており、Malta Experience(入場料16ユーロ)の特別ツアーで見学可能です。
ヴァレッタ観光の所要時間は最低でも丸1日、できれば2日間確保することをおすすめします。主要観光スポットは徒歩圏内にありますが、一つ一つじっくり見学すると予想以上に時間がかかります。
最後に、ヴァレッタを訪れる際は必ず歩きやすい靴を着用してください。美しい石畳の街並みは写真映えしますが、長時間の観光には足への負担が大きいのも事実です。しかし、その小さな不便さを補って余りある感動と発見が、この魔法のような要塞都市には待っています。