なぜトゥルムは「普通の遺跡」ではないのか?
メキシコのユカタン半島にあるトゥルム遺跡を訪れた瞬間、私は息を呑みました。ここは単なる古代遺跡ではありません。カリブ海の真っ青な海を見下ろす断崖の上に建つ、マヤ文明最後の都市なのです。
多くの人がチチェン・イッツァの方が有名だからと素通りしてしまいますが、それは本当にもったいない。トゥルム遺跡は、マヤ文明が16世紀まで実際に人々が住んでいた「生きた都市」だったからです。つまり、スペイン人が到着したときも、まだここには人が暮らしていたのです。
朝一番に行くべき理由とは?
トゥルム遺跡の入場料は95ペソ(約700円)で、営業時間は朝8時から夕方5時まで。でも、絶対に朝8時の開門と同時に入ることをおすすめします。
なぜなら、午前10時を過ぎると観光バスが次々と到着し、あの静寂な遺跡が一気に人だらけになってしまうから。朝の静けさの中で見るトゥルムは、まるで時が止まったかのような神秘的な雰囲気に包まれています。
特にエル・カスティージョ(城塞)から見下ろすカリブ海の景色は、朝日に照らされて本当に美しい。この瞬間のためだけに、早起きする価値があります。
観光客が知らない「隠れた絶景ポイント」
多くの観光客はメインの建物群だけ見て満足してしまいますが、実は遺跡の南端に見落とされがちな絶景スポットがあります。
それは、風の神殿から少し歩いた先にある小さな展望台。ここからは、トゥルム遺跡全体とカリブ海が一望できる、まさに「隠れた絶景」なのです。ガイドブックにもほとんど載っていないので、ここで写真を撮れば、きっと友人たちに「どこで撮ったの?」と驚かれるはず。
ただし、足場が少し悪いので、歩きやすい靴は必須です。サンダルで行くと後悔することになります。
マヤ文明の謎「なぜ海沿いに都市を築いたのか?」
実は、トゥルムがこの場所に建設された理由には、興味深い秘密があります。多くのマヤ遺跡が内陸部にあるのに対し、なぜトゥルムだけが海沿いなのでしょうか?
答えは「貿易」にありました。トゥルムはマヤ文明最大の貿易港だったのです。ここから船でホンジュラスやベリーズまで交易に出かけ、ジェイド(翡翠)や黒曜石、ココア豆などを取引していました。
遺跡内にあるフレスコの神殿には、今でも当時の壁画が残っており、そこには海の神や商売の神が描かれています。これらの壁画を見ていると、当時の人々の暮らしぶりが目に浮かんでくるようです。
実際に行って分かった「意外な注意点」
トゥルム遺跡を訪れる際の注意点をいくつかお伝えします。まず、日焼け止めは必須。遺跡内には日陰がほとんどなく、カリブ海からの照り返しもあって、想像以上に日差しが強いのです。
また、入り口から遺跡まで約1.5キロの道のりがあります。有料のトロッコ(往復50ペソ)もありますが、歩いても15分程度なので、体力に自信があれば歩くことをおすすめします。途中、ジャングルの中を歩くので、それも含めて冒険気分を味わえます。
水分補給も大切です。遺跡内には売店が1軒だけありますが、かなり割高なので、事前にペットボトルを持参することをおすすめします。
カンクンからのアクセスで知っておくべきこと
カンクンからトゥルムまでは車で約2時間の道のり。レンタカーで行く場合は、高速道路料金が片道約400ペソかかります。でも、途中の景色も楽しめるので、運転に自信があれば車がおすすめです。
バスを利用する場合は、ADOバスが便利。カンクンのバスターミナルから1日数本出ており、料金は片道約200ペソ。ただし、トゥルムのバス停から遺跡までは徒歩20分ほどかかるので、タクシーを使うか、レンタル自転車を借りるという手もあります。
遺跡の後に立ち寄りたい「隠れ家ビーチ」
トゥルム遺跡を見学した後は、ぜひ遺跡の真下にあるトゥルムビーチに降りてみてください。遺跡から急な階段を降りると、そこには真っ白な砂浜とエメラルドグリーンの海が広がっています。
このビーチは、遺跡の入場券があれば無料で利用できる穴場スポット。観光客の多くが遺跡だけ見て帰ってしまうので、意外と人が少なくて穴場なのです。古代マヤの王様たちも、きっとこの美しい海を眺めていたのだろうと思うと、なんだか感慨深い気持ちになります。
ただし、波が高い日もあるので、海に入る際は注意が必要です。ライフガードはいないので、自己責任で楽しんでください。
地元の人だけが知る「セノーテとのセット観光」の裏技
実は、トゥルム遺跡から車で10分ほどの場所に、観光客にはあまり知られていないセノーテ・カラベラがあります。有名なグラン・セノーテと違って入場料も150ペソと安く、人も少ないので穴場中の穴場。
ここの面白いところは、洞窟の形が髑髏(どくろ)に見えることから「カラベラ(スペイン語で髑髏)」と名付けられたこと。古代マヤ人にとってセノーテは聖なる場所でしたが、まさにトゥルム遺跡の人々もこのセノーテで儀式を行っていたかもしれません。
水温は年中25度前後で、透明度が抜群。シュノーケリングセットは現地でレンタルできますが、持参すれば50ペソ節約できます。
トゥルムで絶対に食べるべき「本物のユカテカン料理」
遺跡見学でお腹が空いたら、地元の人が通うロンチェリア・ラ・エスキーナという小さな食堂がおすすめ。観光地価格ではない、本当のメキシコ料理が味わえます。
ここのコチニータ・ピビル(豚肉のアチョテ蒸し焼き)は絶品で、1皿120ペソほど。バナナの葉で包んで地中で蒸し焼きにした伝統料理で、マヤ時代から変わらない調理法なのです。観光客向けレストランでは味わえない、本物の味がここにあります。
営業時間は朝7時から午後3時まで。地元の働く人たちで賑わう、まさに隠れた名店です。スペイン語しか通じませんが、メニューを指差せば大丈夫。むしろ、そのローカル感がたまりません。
帰り道で立ち寄りたい「マヤの村の市場」
トゥルムからカンクンに戻る途中、プラヤ・デル・カルメンで途中下車するのもおすすめ。ここには観光客向けではない、地元の人が使う市場があります。
特に土曜日の朝に開かれるティアンギス(青空市場)では、マヤ系の人々が作った手工芸品や、地元でしか手に入らない調味料などが格安で買えます。観光地のお土産屋さんの3分の1以下の価格で、しかも本物の民芸品が手に入るのです。
ただし、現金のみの取引で、スペイン語ができないと少し大変。でも、身振り手振りと笑顔があれば、きっと温かく迎えてくれるはずです。
最後に:トゥルムが教えてくれる「時の流れ」
トゥルム遺跡を歩いていると、不思議な感覚に襲われます。500年前にはここで人々が普通に生活していたのに、今は観光地として多くの人が訪れる。そして数百年後には、また違う姿になっているかもしれません。
マヤ文明最後の都市トゥルムは、栄華と衰退、そして復活の物語を静かに語りかけてくれます。単なる「インスタ映えスポット」として消費してしまうのではなく、ここに生きた人々の思いに少しでも想いを馳せてもらえたら、きっとより深い旅の記憶になるはずです。
朝の静寂の中で海風に吹かれながら眺める遺跡の姿は、一生忘れられない光景となることでしょう。