ニュージーランドの「芸術の街」って本当?実際に行って感じたこと
ネルソンと聞いて、多くの人がイメージするのは「アーティストが集まる穏やかな街」かもしれません。でも実際に足を踏み入れてみると、想像以上に多面的で奥深い場所でした。南島北部に位置するこの街は、確かに芸術家が多く住んでいますが、それだけじゃない魅力がたくさん隠れているんです。
私がネルソンを初めて訪れたのは3月の終わり。オークランドから国内線で約1時間20分のフライトで到着しました。空港から市内中心部までは車で約15分という手軽さも魅力の一つです。でも本当の魅力は、街を歩き始めてから気づくことになります。
トラファルガーストリートで見つけた「普通じゃない」お店たち
ネルソンの中心街、トラファルガーストリートを歩いていると、確かにアート系のお店が目に付きます。でも私が驚いたのは、その多様性でした。陶芸、ガラス工芸、木工、テキスタイル…本当に様々な分野のアーティストが集まっているんです。
特に印象的だったのが、ホグランドアートガラスという工房。ここでは実際にガラス吹きの実演を見ることができます(通常は平日の午前10時から午後4時まで)。職人さんが1200度の炉でガラスを溶かしながら作品を作る様子は、まさに芸術が生まれる瞬間を目撃しているような感覚でした。
でもここからが「普通じゃない」部分。この工房の奥には、なんと廃材から作られたアート作品を展示するスペースがあるんです。地元の環境問題に取り組むアーティストたちが、海岸に打ち上げられたプラスチック片やビンの欠けらを使って作品を制作している姿に、私は考えさせられました。
クイーンズガーデンが教えてくれた意外な歴史
街の中心にあるクイーンズガーデンは、一見すると普通の公園です。でも実はこの場所、ネルソンの複雑な歴史を物語る重要なスポットなんです。
1842年にヨーロッパ系入植者によって作られたこの街は、当初「ニューゼーランドで最も計画的に作られた街」として設計されました。クイーンズガーデンも当時の都市計画の一部だったのですが、ここには地元の人でも知らない人が多い秘密があります。
公園の北東角に小さな石碑があるのですが、そこには「ニュージーランドで最初に日本人が定住した場所」と刻まれているんです。1890年代に、和歌山県出身の漁師たちがこの地域で真珠貝の採取を始めたのが始まりでした。この事実を知って公園を歩くと、また違った感慨を覚えます。
土曜市場で遭遇した「ネルソンあるある」
毎週土曜日の朝8時から午後1時まで開催されるネルソンサタデーマーケットは、地元の生活を垣間見える場所です。でもここでも予想外の発見がありました。
新鮮な野菜や果物、手作りのパンやジャムが並ぶのは想像通りでしたが、驚いたのは「ボイジュール(Bonjour)」というフランス系ベーカリーのクロワッサン。なぜニュージーランドの小さな街でこんなに本格的なフランスパンが?と店主に聞いてみると、実はネルソンには意外に多くのヨーロッパ系移民が住んでいるとのこと。
さらに面白いのが、マーケットで売られている「タマリロ」という果物。日本ではほとんど見かけない南米原産のフルーツですが、ネルソン周辺では普通に栽培されています。トマトのような見た目だけど、味は少し甘酸っぱくて独特。1個2ドル程度で買えるので、ぜひ試してみてください。
センターオブニュージーランドの謎?本当の中心地はどこ?
ネルソンから車で約30分のところに「センターオブニュージーランド」という看板があります。でもこれ、実は正確じゃないって知ってました?
地元のガイドさんに教えてもらったのですが、この「中心地」は1962年に測量技師が計算した結果なのですが、その後より正確な測量技術によって、実際の中心地は少し南にずれていることが分かったそうです。それでも看板はそのまま残されているという、なんともニュージーランドらしいゆるい話です。
でもセンターオブニュージーランドハートからの眺めは本当に素晴らしく、天気が良い日は南島北部の山々を一望できます。入場料は無料で、車で山頂まで行くことができるので(約20分)、時間があれば立ち寄る価値は十分にあります。
アベルタスマン国立公園への玄関口としてのネルソン
多くの観光客がネルソンを訪れる理由の一つが、アベルタスマン国立公園への玄関口だということ。でも実は、ネルソン市内から公園の入口(マラハウ)までは車で約1時間かかります。
私が実際に行ってみて分かったのは、この道中がまた素晴らしいということ。特にモツエカという小さな町を通る時に見える、リンゴ園とホップ畑の風景は圧巻です。ネルソン周辺は実は南島有数の果樹栽培地帯で、特にリンゴとワイン用ぶどうの栽培が盛んなんです。
3月から4月にかけては収穫シーズンで、道路沿いに「U-Pick(自分で摘み取り)」の看板が立つ果樹園がたくさんあります。1キロあたり3〜5ドルで新鮮なリンゴが手に入るので、アベルタスマンでのトレッキングの際の行動食としても最適です。
ネルソンで食べるべき隠れグルメって何?
観光ガイドブックには載っていない、地元の人だけが知るグルメがネルソンにはあります。その代表格が「グリーンマッスル」と呼ばれるニュージーランド産のムール貝です。
ザ・ボートシェッド・カフェ(毎日午前8時から午後9時まで営業、メイン料理18〜28ドル)で食べたグリーンマッスルのワイン蒸しは、今まで食べたどのムール貝よりも大粒で味が濃厚でした。実はネルソン周辺の海域は、このムール貝の養殖に最適な環境が整っているそうです。
さらに意外だったのが「ハンツマンスポップコーン」。ネルソン郊外にある小さな工場で作られているこのポップコーンは、地元のハチミツやマヌカハニーを使った独特の味付けで、お土産としても人気があります(1袋6〜8ドル)。
宿泊するなら知っておきたいネルソンの地形
ネルソンで宿を探す時、意外に重要なのが「どの地区に泊まるか」ということ。中心街は比較的平坦ですが、住宅地は丘陵地帯にあるため、坂道が多いんです。
私が最初に予約したB&Bは丘の上にあって、景色は最高だったのですが、街まで歩くのに毎回20分の坂道を上り下りする羽目になりました。足腰に自信がない方は、トラファルガーストリート周辺の宿泊施設を選ぶことをお勧めします。
逆に、車でアクセスする予定があるなら、タフナヌイビーチ近くの宿泊施設も良い選択肢です。市内中心部から車で約15分ですが、朝の散歩で美しい海岸線を楽しめます。宿泊料金も中心街より1泊あたり20〜30ドル安くなることが多いです。
意外に重要?ネルソンの気候と服装の話
「南島の北端だから暖かい」と思って軽装で行ったら、夜は意外に冷え込んで驚きました。特に3月〜5月は昼夜の気温差が大きく、日中は25度でも夜は10度近くまで下がることがあります。
また、ネルソンは意外に風が強い街です。タスマン湾からの海風が街中まで吹き込むため、軽いジャケットやウィンドブレーカーは必須アイテム。地元の人たちがいつも薄手の上着を持ち歩いているのを見て、納得しました。
帰る前に気づいた、ネルソンの本当の魅力
3日間のネルソン滞在を終えて空港に向かう途中、私はこの街の本当の魅力に気づきました。それは「ちょうど良いサイズ感」ということです。
大都市のような喧騒もなく、かといって退屈すぎることもない。アートがあり、自然があり、美味しい食べ物があり、親切な人たちがいる。そして何より、観光地化されすぎていない「等身大のニュージーランド」を体験できる場所でした。
特に印象的だったのは、最後の夜にトラファルガーストリートのカフェで出会った地元のアーティスト。彼女は「ネルソンの良いところは、アーティストでも普通に生活できる物価と、インスピレーションを与えてくれる自然環境が両立していること」と話してくれました。その言葉を聞いて、この街に多くのクリエイターが集まる理由が分かった気がします。
ネルソンは決して派手な観光地ではありません。でも、ニュージーランドの日常と非日常が自然に混ざり合った、とても居心地の良い街でした。次回ニュージーランドを訪れる時は、もう少し長く滞在してみたいと思っています。