ケープ・キッドナッパーズでゴルフをした私が「世界最高」と言われる理由に納得できなかった理由

断崖絶壁の上でゴルフをするって本当?

ケープ・キッドナッパーズの断崖絶壁に建つゴルフコース

ニュージーランドの北島、ホークスベイにあるケープ・キッドナッパーズ ゴルフコースは、まさに「常識外れ」という言葉がぴったりのゴルフ場です。海抜140メートルの断崖絶壁の上に造られたこのコースは、一歩間違えれば太平洋に真っ逆さまという、スリル満点の立地にあります。

実際にプレーしてみて驚いたのは、ボールを打つ瞬間の緊張感です。特に15番ホールでは、グリーンの向こう側がいきなり断崖になっていて、風の音しか聞こえない静寂の中でパットを決める体験は、他では味わえません。料金は1ラウンド約350ニュージーランドドル(約32,000円)と決して安くはありませんが、この景色を前にすればその価値を理解できるはずです。

アクセスの険しさが半端ではない件

ゴルフコースへ続く険しいアクセス道路

ここで多くのゴルファーが直面する最初の難関が、コースまでのアクセスです。ネイピア市内から車で約40分かけてケープ・キッドナッパーズの入口まで到達しても、そこからが本当の冒険の始まり。専用の四輪駆動車でしか登れない急勾配の未舗装道路を15分ほど登り続けます。

私が訪れた日は風が強く、運転手さんが「今日はマシな方だよ」と笑いながら言っていましたが、車窓から見える景色は絶景と恐怖が入り混じったものでした。この道のりだけで既に冒険気分が高まり、ゴルフクラブを握る前から心拍数が上がっていたのを覚えています。公共交通機関では絶対に辿り着けない立地なので、必ずツアーに参加するか、宿泊プランを利用することになります。

風との戦いが想像以上に過酷だった

強風の中でゴルフをプレーする様子

「世界最高のゴルフコース」という評価に疑問を抱いたのは、プレー開始から30分後のことでした。海からの強風が容赦なく吹き付け、普段なら簡単に決められるパットでさえ、ボールが風で押し戻されてしまうのです。

平均風速は時速25キロを超えることも珍しくなく、私がプレーした日は時速40キロの突風が吹いていました。キャディーさんは「今日は穏やかな方です」と言っていましたが、日本のゴルフ場では経験したことのない条件でした。特に7番ホールのティーグラウンドでは、ボールを置く瞬間に風で飛ばされそうになり、しっかりと体重を低く保つ必要がありました。

この風の影響で、普段の飛距離やクラブ選択が全く通用しません。150ヤードの距離でも、風向きによっては7番アイアンからドライバーまで選択肢が変わってしまいます。

設計思想に隠された「羊飼いの遺産」

ケープ・キッドナッパーズの自然な地形を活かしたホール設計

多くの人が知らない事実ですが、このゴルフコースは元々羊の放牧地だった土地を利用して建設されています。設計を手がけたトム・ドーク氏は、既存の地形をほとんど変えることなく、羊たちが自然に作り出した小道や起伏をそのままコースレイアウトに組み込みました。

そのため、フェアウェイの形状が他のゴルフ場とは明らかに異なります。直線的ではなく、まるで羊たちが草を食みながら歩いた跡をなぞるような、有機的なカーブを描いているのです。12番ホールでは、今でも時折、野生の羊がフェアウェイに現れることがあり、「羊ルール」という特別なローカルルールも存在します。

この設計思想により、人工的な美しさではなく、ニュージーランドの原風景そのものを体験できるゴルフ場となっているのです。

結局「最高」なのか?私なりの結論

ケープ・キッドナッパーズでのゴルフ終了後の達成感

18ホールを回り終えた時、私の中で「世界最高」という評価に対する答えが見つかりました。確かに風は強く、アクセスは困難で、料金も高い。しかし、これらすべての困難を乗り越えてこそ味わえる達成感と、地球の壮大さを肌で感じられる体験は、他では絶対に得られません。

営業時間は午前8時から午後5時までですが、完全予約制で、特に夏季(12月〜2月)は数ヶ月前からの予約が必要です。私が体験したのは3月の平日でしたが、それでも2ヶ月前には予約を入れました。

プレー後にクラブハウスで他のゴルファーと話をしていると、皆が口を揃えて言うのは「二度と来たくないし、また来たい」という矛盾した感情でした。これこそが、ケープ・キッドナッパーズが真の意味で「最高」と呼ばれる理由なのかもしれません。

プレー前に知っておくべき実践的なアドバイス

実際にプレーして分かったのは、防風対策が生命線だということです。通常のゴルフウェアでは太刀打ちできないため、登山用の防風ジャケットを持参することを強く推奨します。また、ボールマーカーは重いものを選び、軽いプラスチック製のティーは風で飛ばされるため、木製のティーを多めに用意してください。

グローブも2〜3枚は必須です。汗と海風の塩分で1ラウンド中に何度も交換することになります。そして最も重要なのは、スコアへの執着を捨てること。このコースでは、良いスコアよりも、その瞬間瞬間の体験を味わうことに集中した方が、はるかに満足度の高いラウンドになります。

帰り道、再び四輪駆動車で断崖を下りながら振り返ったケープ・キッドナッパーズは、まるで雲の上の別世界のように見えました。確かに「世界最高」かどうかは人それぞれでしょうが、間違いなく世界で最も記憶に残るゴルフ体験の一つであることは保証できます。